HなことをしているときにIQがあがる探偵

Loser

第1話 憧れの探偵とバカな俺

 俺は小さい頃から探偵に憧れていた。テレビで見る名探偵や漫画のヒーロー探偵たち――彼らは難事件を次々と解決し、周囲から尊敬の眼差しを向けられている。それが羨ましくてたまらなかった。幼心に「いつか自分もああなりたい」と夢見たものだ。


 もっとも、現実の俺はというと、頭があまり良くない。正直に言えば、大学生になった今でも自他ともに認めるおバカだ。推理小説やミステリー映画は大好きで、人一倍たくさん見てきたつもりだが、それで頭が良くなったかと言えばそうでもない。どちらかと言えば知識ばかり増えて、実際に自分で謎を解くなんて芸当はできた試しがない。


 「名探偵になるんだ!」


 そう息巻いて大学に入学したものの、探偵になれる学部なんてあるわけもなく、俺は普通の文系学部の二年生になっていた。せめてもの慰めにとミステリー研究会、通称「ミス研」に所属し、日々推理小説を読んだり、オリジナルの謎解きゲームを作ったりして過ごしている。


 ミス研には俺以外にも個性的なメンバーがいるが、中でも有名なのが一つ上の先輩だ。彼女――霧島涼子先輩は、このサークルの副会長であり、大学内でも有名な美人。そして何より推理力がずば抜けている人だ。いつも冷静沈着で頭の回転が速く、俺たちが行き詰まった謎解きゲームも、涼子先輩が一人ですらすらと答えに辿り着いてしまうこともしばしばだった。


 さらにすごいのは、涼子先輩は自分でミステリー小説を書いてしまうところだ。将来は小説家になりたいらしく、すでに学内の文芸誌に短編推理小説を寄稿したりしている。頭脳明晰で創造力豊か、しかも美人ときているから男子からの人気はすごい。高嶺の花とはまさにこのこと、という存在だ。


 そんな先輩に比べて俺は、と言えば……正直、平凡以下である。授業の成績も中の下、サークルでも雑用専門みたいなものだ。せめて推理の腕でもあればと悔やむが、現実はそう甘くない。いくら名探偵に憧れても、肝心の頭脳が伴わなければただの妄想で終わってしまうのだ。


 それでも俺は夢を諦めきれずにいた。いつか何か大きな事件が起こって、自分がそれを華麗に解決できたら……なんて都合のいい展開を、心のどこかで期待していたのかもしれない。

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