第2話
バイト先に着き、レジまで行ってベルを鳴らすと、店長と一つ年上のバイトの男性が私を見て笑顔を浮かべてくれた。
「おおー!ゆなちゃん!実習終わったの?おつかれさまー!」
店長はそう言って、レジの手前まで出てきてくれた。
平日だからか、ちょうど他のお客さんはいない。
「お疲れ様です!ごめんなさい、お仕事中に!
お休み長くもらっていつもありがとうございます。これ、よかったら」
私が差し出した紙袋を店長は軽く頭を下げながら受け取る。
店長は私が2年生のときに入ってきて、シフトのこととかで結構迷惑かけてるはずなのに、嫌な顔一つせず受け入れてくれる優しい人だ。今も趣味でバンドを時々やってるらしいから、私の彼氏がカクだってことは秘密にしてる。
休憩室で休んでたらスマホで突然カクのバンドの曲が流れて、思わず振り返ったら店長のスマホで、ごまかしきれず、私もファンだということにしている。
「あれ?!これ、流行ってるお菓子だよね?!この間テレビで見たよ!
菊見、結奈ちゃんがこの、ゼリーみたいなやつ買ってきてくれたぞ」
ドリンクバー付近を清掃しようとしてた、同級生の
「おー、本当だ。ありがとな、結奈。
つーか、毎回実習のたびにこんな良い菓子持ってきてたら金欠にならねぇ?バイトも入ってない上に一人暮らしだろ?」
彼氏が人気バンドのベーシストでほぼ生活費負担してくれてるから、むしろ貯金ありあまってるなんてことは口が裂けても言えない。
「彰人は相変わらず、週五でシフト入ってるの?」
「うん。あー、でも年末にかけて103万超えない様に調整してる。
去年、それで12月毎日もやしだったから」
私が渡したお菓子を店長から一つもらい、口に運んだ。店長も同様に口に運ぶ。
……勤務中なのに、ゆるいな。
だからこそ、続けられたんだけど。
「うっま!店長、うまいっすね、これ!」
「ね!おいしい!ちょっと裏置いてくるわ。
菊見、レジよろしく!」
時計を見ると私もお店に向かう時間だった。彰人に手を振ると、ふいに手首をつかまれた。
ちょっとびっくりして振り返ると、髪を触られる。
「なんか、ついてる」
……びっくりしたあ!彰人って、誰に対しても若干距離近いんだよな。
なんとなく気まずくて私も触られた部分に触れると、少しだけ笑った。
「結奈、今日おめかししてる?どっか行くの?」
「あ、うん!デート!彼氏と」
「ああ……、続いてたんだ。
実習でしんどそうだったから、てっきり別れたと思ってた」
たしかに直近、私のSNSは実習の愚痴が多かったような気がする、……いや、それしかなかったかも。
うかつにカクにまつわること投稿しないようにすると、どうしても大学の話だけになっちゃうんだよな。一緒に暮らしてるし、幸せなことって大体カクに絡んでるし。
「結奈、実習後期もあるよな?
始まる前に、バイトでバーベキュー行かない?」
「え、行きたい!
ちなみに後期の実習、そんなに長くないからそれ終わってからでもいいよ」
バイト先は同年代が多くて、比較的仲が良い。
時々しか顔を出さない私にも彰人はこうやっていつも声をかけてくれていた。
正直参加できなくて断ってる回数のが多い気がするけど、それでも誘い続けてくれるのはサークルとかやってない私からするとすごくありがたい。
「じゃあ、また連絡する。彼氏によろしく」
彰人は手を振って私のことを見送ってくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます