【ことわざ小噺】

月花心花

【銭噺】一景『二足のわらじを履く』

◆小噺


魚屋の徳兵衛、昼間は「へいらっしゃい!」と声を張り上げ、

鯛や鰯やと店先を賑わせていた。威勢のいい声と包丁さばきで、近所でも評判の働き者。


ところが日が暮れると、そそくさと暖簾を仕舞い、

博打場に顔を出しては「張った張った!」とサイコロを振る。

こちらも場の空気を仕切る親分顔。まさに二つの顔を持つ男であった。


そんなある晩。

酔っ払いの客が徳兵衛を見つけて声を張る。

「おい魚屋!」

「いやいや、親分!」

どちらで呼ばれても、徳兵衛は「へいっ!」と返事をしたもんだから、

場はどっと笑いに包まれた。


だが笑いも束の間、その噂は奉行所の耳に届き、あえなくお縄。

縄をかけられた徳兵衛の姿を見て、町人たちは肩をすくめて笑った。

「へっ、所詮、二足のわらじよ。どっちも中途半端に終わっちまったってこった」



◆解説

 •意味 二つの立場や職業を同時に担うこと。多くは中途半端になることを揶揄するもの。

 •起源 江戸時代、盗人あがりの岡っ引きが「盗人」と「捕物役」の二役を兼ねたことから生まれたとされる。

 •現代の使い方 「会社員をしながらバンド活動。まさに二足のわらじだね」

 •類似のことわざ 該当なし


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