EP-005 幼女
SCP-xxxx【“さらちゃん“と“はるくん“の日常】Object Class:Archon
特別収容プロトコル:
現在、SCP-xxxxは文字情報として記録されており、その性質上管理を必要としません。
財団の使命である確保、収容、保護にまつわる如何なる行動もこのオブジェクトに対して行われる事はなく、またその必要もありません。
20■■年■■月■■日
サイト-866の職員からKeterへのオブジェクトクラス変更の要請が提出されましたが、O-5評議会はこれを却下。
Archonが妥当であると再発表しました。
混乱を避ける為、SCP-xxxxに対するオブジェクトクラスの変更要請は現在認められていません。
本オブジェクトにおける特別収容プロトコルの詳細については、“001”を参照してください。
説明:
☆☆☆
残酷且つ衝撃的な表現が含まれている可能性があります。
職員はその事に留意の上本報告書を閲覧してください。
☆☆☆
SCP-xxxxは、本報告書における“補遺”です。
“さらちゃん”と“はるくん”についての詳細は、“001”を参照してください。
“補遺04”にてSCP-053についての言及がなされますが、実際のSCP-055との関連性は不明です。
この報告書を閲覧する財団職員は事前に“SCP-053【幼女】“を参照しておくことが推奨されます。
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・補遺04
状況がうまく飲み込めない。
「ね、■■くんどう思う?」
さらちゃんが親しげに話しかける。
男が笑顔で返答する。
まるでテレビのインタビューを見ているよう。
彼の目にはモザイクがかかっている。
「うん、すごいと思う。水野くんはSCP博士なんだね」
「そうなの■■くん、はるくんはすっごいんだよ!」
名前が聞き取れない。
その箇所の声だけが不自然に、ブチブチと切断されている。
「諏訪亭さんの気持ち、よくわかるよ」
すわてい。
さらちゃんの苗字……?
……なんでこの男が知ってる?
「水野くん、僕もSCPの話を聞いてみたいな。何かお勧めのSCPの話、無いかな?」
僕を苗字で呼ばないでくれ。
僕ははるだ。
さらちゃんがそう呼んでるんだ。
「あっ、■■くんごめん、はるくんはね、恥ずかしがり屋さんなんだ」
さらちゃんはどうしてこの男に謝っているんだろう。
「はるくんも、ごめんね」
片目を瞑り、片手を立てる。
なんで僕に謝るの?
……何も理解できない。
この男は誰だ。
僕に何の用だ。
「そうなんだ……水野くん、ごめんね」
憐れむような声色。
おそらくは内心の蔑み。
ふつふつと何かが込み上げてくる。
「初対面だし今回は挨拶ってことで。そろそろ病室に戻ろうかな」
「え、どうして?」
驚きながら尋ねる。
「見たいドラマがあるんだ。丁度もうすぐ始まる時間だから」
えー、そうなんだあ。とがっかりした表情。
血が逆流する感覚。
手が震える。
男が席を立ち、何かに気付く。
「あ、その髪留め、もしかして諏訪亭さんとお揃い?」
「そうなの!はるくんにはいつも楽しませて貰ってるから、この前プレゼントしたんだあ」
さらちゃんの顔がぱっと晴れやかになる。
「へえ、良いね!ちょっと、よく見せてくれないかい?」
男が僕の胸に手を伸ばす。
それはさらちゃんから貰った大切なものだ。
やめろ。
指先が青い髪留めに触れる。
「!!!」
思考が焼き切れる。
何者かが僕の身体をつき動かす。
“この男を殺さなければならない”
床頭台の花瓶が目に入る。
乱暴に掴みとり、力を込める。
そして……振り下ろした。
ごり、という鈍い感触。
動脈を裂いたのだろう。
赤い飛沫。
もう一度振り下ろす。
額が陥没する。
男の息の根が止まる。
さらちゃんが悲鳴を上げた。
顔が濡れて鬱陶しい。
振り下ろす。
振り下ろす。
振り下ろす。
つかれた。
「■■くん!?■■くん!!」
さらちゃんが男の名前を叫びながら泣いている。
どうだっていい。
この男も、この男に媚びるさらちゃんも。
割れてしまった花瓶の先をさらちゃんの頸動脈に突き立てる。
噴水のように吹き出す血液。
呆けた顔で僕を見て、倒れる。
因果報応だよ、さらちゃん。
さて、次は僕だ。
何の未練もない。
僕は、全力を込めて頸を突いた。
窓から差し込む光が、赤い粒子を照らす。
綺麗なアーチだ。
失血性ショックによる死は、2リットルあれば足りると聞いた事がある。
痛みはない。
心地いい喪失に身を委ね、目を閉じる。
「水野くんありがとう、よく似合ってるよ」
「……!?」
男が何事もなかったかのように笑う。
じゃあね、と別れを告げて立ち去っていく。
さらちゃんが手を振り見送る。
「……」
幻……だったのだろうか。
やけに鮮明な赤。
骨を砕く音。
切り裂いた感触。
まるで現実のようだった。
あれは僕の願望だったのだろうか?
いや違う。
いつだって一歩引いて、冷静に世界を見るのが僕なんだ。
それに僕がさらちゃんを傷付ける訳がない。
だから……あれは僕なんかじゃない。
……ズキンと、頭が痛む。
「……SCP-053」
僕はコミュ障だ。
だけど、さらちゃんとSCPの話をする時だけは饒舌になれる。
「わっ、もしかして覚醒きた?」
覚醒、というにはダウナーな心持ちだ。
あまり話したい気分じゃない。
のに、僕の喉元は自律して動いていく。
「SCP-053【幼女】。オブジェクトクラスはEuclid。」
「あ、真ん中のやつだよね!」
さらちゃんが目を輝かせる。
SafeとKeterに挟まれているから真ん中。
安直だけど、理解の助けとしては結構優秀だと思う。
「このSCPは、無邪気で賢くて、お喋り好きな小さなの女の子の姿をしている」
ピコンと電球が飛び出す。
人差し指を立てるさらちゃん。
「でも、それで終わらないのがSCPだよね」
にひひ、と目を細めるさらちゃん。
ご名答だよ。
「彼女と接触した人間は、深刻な被害妄想に取り憑かれ、周囲の全ての人間を殺害しようとする」
「え……」
トーンダウンする。
思っていたのと違ったのだろうか。
「周囲に誰もいなくなれば、今度は女の子……SCP-053を殺害しようするんだ」
さらちゃんが神妙な面持ちで僕の言葉を待つ。
「そして、その瞬間に心臓発作で死んでしまう」
「……」
張り詰めた表情。
さらちゃんが言いにくそうに口を開く。
「……もしかして、それだけ?」
「……うん。それだけ」
悲痛ともいえる静寂。
僕にとって、さらちゃんは大切な人だ。
それは認める。
もし仮に。
僕が、それによって冷静さを失い、他者への攻撃性が増しているのだとしたら。
……彼女は、僕にとって有害な存在なのかもしれない。
「……喉乾いちゃったね。ジュース買ってくるよ」
はるくんは何がいい?と笑みを湛える。
「……おっ、おれんじ」
「オレンジジュースね!了解したよ!」
陽光のような満面の笑み。
振り向きざま、さらさらと髪が煌めく。
まっててね、と跳ねるように病室を出る。
さらちゃんはかわいい。
穢れを知らない天使のよう。
彼女が天使なら、僕はなんだ?
<嫉妬>のレヴィアタンか、
<強欲>のマモンか、
<色欲>のアスモデウスか……。
けど、どれも違う気がする。
SCP-053は、純粋で明るい活発な3歳児だ。
だけどその本質は悪魔そのもの。
自分本意であり、人を傷つけることを厭わない。
胸ポケットの髪留めの感触を確かめる。
あの男が現れるまで、さらちゃんは僕のものだった。
……僕は、<傲慢>だ。
翌日、あの男は死亡退院した。
末期癌だったそうだ。
さらちゃんは泣いていた。
その涙も、震える唇も、艶やかな黒髪も、豊満な肢体も……全部僕のものだ。
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20■■年■■月04日 19:00
日本国の一般的な家庭において、一家心中事件が各地で同時多発的に発生しました。
東京都は特に件数が多く、その数は23件に上っており、今だ増え続けています。
該当する世帯全てにおいて3歳の女児が存在し、その全てが一家心中を免れています。このような不可解さから、何らかのアノマリーが関与している可能性が高く、現在日本国の各サイトが総掛かりで調査を進めています。
20■■年■■月04日 22:00
[日本国を管轄する全サイトに通達します]
各地で調査に向かった財団職員及び、警察官の死亡報告が大量に挙がっています。
また現場からは、「女児を保護しようとした両者が取っ組み合いの上殺し合い、生き残った方が突然倒れた」という報告も多数挙がっています。
これらの情報は、SCP-053と件の女児に対する類似性を示しており、彼女ら全てがSCP-053と同様の異常性が発現した、あるいはSCP-053に“変質した”と考えるのが妥当です。
以降、彼女らを“SCP-053群”と呼称し、これらアノマリーの確保にあたってください。
また、当該区域のサイト管理者は、直ちに緊急事態宣言を発令し、迅速な事態の収束に努めてください。
20■■年■■月05日 01:00
[日本国を管轄する全サイト、及び全職員に通達します]
銃器の使用は許可されていません。
また、SCP-053群と視線を合わせる事を禁じます。
職員の感情的な行動は服務規程違反です。
最悪の場合、終了措置の対象となります。
繰り返します。
銃器の使用は許可されていません。
また、SCP-053群と視線を合わせる事を禁じます。
職員の感情的な行動は服務規程違反です。
最悪の場合、終了措置の対象となります。
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