人生の期限

杏子

第1話 定められた期限

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。少しお待ちくださいね。今、採血しますね。」


 前世でどれほどの徳を積んできたかで、その人の人生の長さが決まる。つまり、前世での行いがその人の人生の期限を左右するのだ。期限の長さは生まれて直ぐに採血をし、血の濃さで分かるという仕組みだ。現代を生きる私たちは、不思議に思うかもしれないが、この世では日常である。


 生まれた時には、前世の記憶はなく、生まれてきた「その人」としての人生が始まる。生まれる期限(人生)は、神が決めると信じられているが、実際のところ本当のことは誰にも分からない。


 8月の残暑が続くある日、窓からそよ風が吹き込み、元気な女の子が生まれた。名前は夏花。そして同日、田舎のある家で奏風とういう男の子が誕生した。のちに、2人は出会い人生を共にしてゆくことになるのだが、この話は後程ということにしよう。


 夏花の血の濃さは、30.8。つまり、30歳と少し生きることができるかどうかということを意味していた。奏風は、29.5と、生まれた日は同じであったが、人生の期限は違った。


 この世の人々の平均寿命は87.6歳。夏花と奏風の人生の長さはとても短いものであった。限られた時間ではあるが、事故や病気や事件などに出くわすかもしれない。人生の長さは決まっているが、運命を操ることはできない。

これから彼らは、そのことを理解し生きていくことになる。

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