34丁目の奇跡、とある先生、そして拙作『家庭教師と優しい奇跡』の話

星月小夜歌

34丁目の奇跡、とある先生、そして拙作『家庭教師と優しい奇跡』の話

 先に謝罪があります。

 外気温は40度超え、炎天下、灼熱の真夏。

 そんなときに、よりによって今から始めるのは『クリスマスを描いた物語』の話。

 季節感もへったくれも無いことをお詫び申し上げます。

 

 本題に入りましょう。


 『34丁目の奇跡』

 1947年にアメリカにて初版が発行され、40万部のベストセラーとなりました。

 同じ年に映画化もされています。

 小説と映画が同じ年に発表されていますが、これは昨今の漫画やゲームの映画化の事情とは大きく異なります。

 この『34丁目の奇跡』はもともと、映画用の脚本として作者であるヴァレンタイン・デイヴィス氏が20世紀フォックス社に応募したところ、映画の製作がかなり進んでから、本にしてはどうかという話が持ち上がってきたようです。

 邦訳版は2002年にあすなろ書房から出版されました。


 前置きが長くなりましたが、私がこの物語を推し続ける話へ移りましょう。

 私がこの、温かい物語と出会ったのは中学1年生。

 当時の私の、国語の担任がこの『34丁目の奇跡』の小説を好きだと言っていました。

 私が彼女……あの先生をどう思っていたのか。

 私は彼女に何の感情を抱いていたのか。

 今となってはもう、はっきりとはわかりません。

 少なくとも、何か特別なようには感じていたのでしょう。

 優しく、可愛らしく、その綴る字は綺麗で、でも怒るときは怒る。

 中学1年生の私にとっては、憧れで理想の女性だったのかもしれません。

 

 小学校までは特に好きでも嫌いでもなかった国語の授業が楽しみで仕方なくなった。

 (彼女に会いたいので)彼女が受け持っている図書委員会に参加した。

 その年限定の配属だったようで、彼女が異動すると知った私は寂しかったけれど、変に思われるのも怖くて普通に過ごすことしかできなかった。

 彼女に言えた最大級の好意の表現は『来年は先生に担任してほしい!』

 中学1年生という子どもの姿では似合わないのに、彼女に近づきたくて彼女が着ているのとよく似たデザインのスカートを買った。

 当時の私にとっては、それが精一杯の『近づきたい』という気持ちの現れだったのでしょう。

 ……今思えば明らかに、少なくとも『好き』ではありますよね。

 likeだったのかloveだったのかはもう、はっきりさせないこととします。


 勘のいい方ならもうお分かりかもしれませんね。

 私がこの小説版『34丁目の奇跡』を手に取った理由。

 それは、無自覚のまま好きになっていた先生が推している本だったから。

 先生の好きな本を、私も読みたい。

 そんな想いから私はこの本を読み始めたのです。


 先生が教えてくれたこの本は優しく暖かく、どこか現実味のある夢とファンタジーでした。

 この、甘すぎず夢と幻想を見すぎず、でも最後には、

 「信じてみよう」

 「愛とか夢とか、形がないけど大切なものがある」

 そんな気持ちにさせてくれる物語です。


 大人になりかけの中学1年生という少女に、きっと彼女自身はそこまで思ってなかったのかもしれませんが、私が『好き』だったあの国語の先生は、素敵な贈り物を置いていきました。


 中学1年生の貴女は思いもしていないでしょうけれど、貴女は当時の先生の歳を超えてまでも、先生と『34丁目の奇跡』を独り愛し続けることになるのです。


 さて、拙作『家庭教師と優しい奇跡』について。

 https://kakuyomu.jp/works/16818023212121462983



 小説を書き始めてしばらくしたある時、私の中にあるアイデアが下りてきました。

 

“ 『34丁目の奇跡』を、自分なりにオマージュして百合を書いてみよう ”

 

 大好きな小説のオマージュ。

 妥協やクオリティの低いものを出すなんて、決してしたくない。

 当初は2023年のクリスマスに公開を目指していました。

 妊娠による体調不良で一時中断するも、2024年の1年間をかけて妥協せず書き上げ、2024年のクリスマスに3万字程度の短編として完結できました。

 たくさんの人に読んでいただけて、評価もいただけて、今では私のお気に入り作品の一つでもあります。

 (実は執筆した全作品お気に入りなんですけどね!)


 『家庭教師と優しい奇跡』には、私の『好き』をいっぱい詰め込んでいます。

 主人公である大学生アルバイトの家庭教師、石英きららは『国語の先生』に救われたことで同じ国語教師を目指しています。

 

 きららは母子家庭の母親に雇われ、その娘である中学2年生の少女、有理香ゆりかの家庭教師となります。

 家庭教師とその教え子、という形に変奏してはいますが、この物語も私の大好きな『先生と生徒』の百合として書いています。

 細かいところはぜひとも本編を読んでいただきたいので、ここでは割愛いたします。


 さて。

 この『好き』を語るエッセイ。

 私が今でもひそかに慕う、ある国語の先生。

 その国語の先生が推してくれた、『34丁目の奇跡』。

 ある国語の先生への慕情と、彼女が愛した『34丁目の奇跡』を自分なりにオマージュした『家庭教師と優しい奇跡』。

 3重の『好き』を語るものとなりました。

 

 私が先生に抱いた想いは、一般的には『拗らせている』と言われるのでしょう。

 私自身にもその自覚はございます。

 この、拗らせた果てに行き場のない感情と愛。

 そのようなものが、私の創作の原動力でもございます。


 最後に。

 どうか、私の慕う彼女が、この世界のどこかで、幸せでありますように。 

 

 

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