第13話 学園騒動、爆裂魔導士と鍋蓋決闘

 王都学園に籍を置く俺の生活は、ポチ事件以来すっかり注目の的になっていた。

 廊下を歩けばひそひそ声が飛ぶ。


「ほら、あの人だよ……竜を従えて魔王軍を壊滅させたっていう」

「いや、聞いた話だと竜の“くしゃみ”で全部吹き飛んだらしいぞ」

「それを従える時点でやっぱり勇者なんだよ」


 ……違う。全部違う。俺はただ巻き込まれてるだけだ。


 そんなある日、教室に爆音が轟いた。


「貴様が勇者ユウトか!」


 窓ガラスが震えるほどの声と共に、ひとりの女生徒が乱入してきた。

 赤髪を逆立て、杖の先に紅蓮の魔力をまとわせた少女。


「わ、爆裂魔導士のメルザ……!」

「学院でも指折りの問題児だぞ!」


 周囲の生徒がざわめく。


 彼女は俺を指差し、叫んだ。

「貴様の“奇跡”がどこまで本物か、私の爆裂魔法で試させてもらう!」


 リリアが慌てて立ち上がる。

「やめてください! ユウト様はそんな勝負を望んでいません!」

「黙れ! 私は爆裂の極致を求める者! 勇者と呼ばれる男を倒してこそ、真の魔導士となれる!」


 俺は机に突っ伏したまま、力なく答えた。

「……いや、俺望んでないし。爆裂とか危ないからやめよ?」


 だがメルザは聞く耳を持たなかった。

「決闘だ! 場所は中庭! 命の保証はしない!」


 学院の中庭に、生徒たちがずらりと集まった。

「勇者様と爆裂魔導士の決闘だ!」

「これは見逃せない!」


 俺は人だかりの真ん中に立ち、手に持っているのは……学食から拝借した鍋蓋。


「……いやいやいや、俺これで戦うとかおかしいでしょ」

「ユウト様、鍋蓋で……?」とリリアが青ざめる。

「俺に武器なんてないし……盾っぽいのこれくらいしかなかったんだって!」


 対するメルザは杖を構え、紅蓮の光を凝縮させていく。

「見せてやる、これが私の全力……《爆裂魔法(エクスプロージョン)》!」


 轟音と共に、炎と衝撃が奔流となって押し寄せた。

 俺は反射的に鍋蓋を前に突き出す。


「やばっ――!」


 ――カァァンッ!!!


 鍋蓋がギラリと輝き、爆裂魔法の奔流をそのまま跳ね返した。

 炎の奔流は軌道を反転し、メルザの足元に直撃する。


「ぎゃあああああああ!!!」


 土煙の中、髪が焦げ、制服をボロボロにしたメルザが膝をついた。

 それを見た観客の生徒たちは大歓声を上げる。


「すごい! 勇者様が爆裂を鍋蓋で受け流した!」

「最強魔導士が一撃で敗北だと……!」

「やはり勇者は次元が違う!」


 リリアが感極まった声で俺に駆け寄る。

「ユウト様……やはり奇跡を呼ぶ方……!」


 俺は鍋蓋を見つめながら、力なく呟いた。

「……いやいや、ただの鍋蓋だから……」


 だが、その日を境に――

“鍋蓋で爆裂魔法を退けた勇者”という新たな伝説が、学園中に広まることになるのだった。

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