第20話 玲奈との再会ディナー ― 新たな関係の形

 奈々と別れてから数日後、冬の空気はさらに冷たくなり、夜の街は一層静けさを増していた。そんな中、玲奈から短いメッセージが届いた。「今夜、空いてる?」

 迷う理由はなかった。「空いてる」とだけ返し、彼女が指定したレストランの名前を見て、心の奥に小さな期待が芽生えた。

 店は丸の内の古いレンガ造りの建物の一階にあり、外観からはレストランだとわからないほど控えめな佇まいだった。ドアを開けると、柔らかな照明と、磨き上げられた木の床の香りが漂う。奥のテーブル席に、玲奈は既に座っていた。

 黒のワンピースに淡いパールのネックレス。その装いはシンプルなのに、視線を引き寄せる力があった。

「こんばんは」

「こんばんは。急だったけど、来てくれてありがとう」

 席に着くと、すぐにソムリエがワインリストを差し出した。玲奈は迷わずページをめくり、ある銘柄で手を止めた。

「これにしましょう。ニュージーランドのピノ・ノワール。果実味が豊かで、酸味が柔らかいから、会話の邪魔をしない」

「さすが。含蓄に富む選択だ」

「あなたの好みに合わせただけよ」

 ワインが運ばれ、グラスに注がれる音が静かに響く。淡いルビー色の液体がグラスの中で揺れ、キャンドルの光を受けて複雑な影を作った。玲奈は軽く香りを確かめ、一口含んだ。

「やっぱり、この感じが好き。落ち着くのに、どこか華やか」

「君に似てるな」

「またそうやって、簡単に人を褒める」

 前菜はホタテのカルパッチョ。薄くスライスされたホタテの上に、柑橘系のソースと細かく刻まれたハーブが散らされている。玲奈は一口食べ、ワインを合わせた。

「……合うわね。香りが変わる」

「時間をかけると、さらに変化する。恋愛もそうだ」

「それは、この間も聞いたわ」

「何度でも言うさ。大事なことだから」

 メインは鴨肉のロースト。皮目はパリッと焼かれ、中はほんのり赤みを残している。ナイフを入れると、肉汁がソースと混ざり合い、芳醇な香りが立ち上る。玲奈は静かにそれを味わい、ふっと微笑んだ。

「あなたとこうして食事をすると、時間の感覚が変わるの」

「それは僕もだ」

「きっと、同じ速度で過ごしているから」

 デザートには、小さなチーズの盛り合わせとポートワインが出された。濃厚な甘みが口の中に広がり、ゆるやかな満足感が二人を包む。

「ねえ、悠人。これから先、私たちはどうなると思う?」

「未来を完全に予測するのは不可能だ。でも、君と過ごす時間は増やしていきたい」

「それが、今の答え?」

「今のところは、そうだ」

 外に出ると、丸の内の並木道には白いイルミネーションが灯っていた。玲奈はマフラーを巻き直し、夜空を見上げた。

「今夜のこと、覚えていてね」

「忘れないよ」

 その瞬間、僕ははっきりと感じた。この関係はもう、以前のような不確かなものではない。新しい形へと変わり始めているのだと。

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