第4話 銀座で隼人と寿司屋

 その日の夜、僕は白石隼人と銀座の路地にある寿司屋に向かった。

 暖簾をくぐると、檜のカウンターが一枚板で伸び、その奥には職人が一人、真剣な表情で魚を切っている。鼻をくすぐるのは、醤油と酢飯が混ざった独特の香り。

「お前の理論、また難しくしてるだろ」

 隼人は席に腰を下ろすなり、半ば呆れ顔で言った。

「相変わらず光速と恋愛を一緒に語ってるけどさ、そんなに簡単に証明できるもんじゃないぞ」

 カウンター越しに置かれた白身魚の握りを見ながら、僕は笑った。「考えるのが僕の仕事だからね」

「まあ、それはわかる。でもな、恋愛はもっと直感的なもんだ。寿司みたいにな」

「寿司?」

「旬を逃したら価値が下がる。理屈じゃないんだよ。今しかないっていう感覚を信じろ」

 職人が握った中トロが僕の前に置かれる。赤と白のグラデーションが美しく、脂の艶が照明に光る。

「でも、熟成で旨味が増す魚もある」僕は言った。

「それは最初に素材が良いからだ。恋愛も同じ。元が悪けりゃ熟成なんて意味がない」

 僕は中トロを口に運び、日本酒で流し込む。海の香りと米の甘みが舌の上で溶け合い、喉を滑っていく。その瞬間、隼人の言う「今しかない」という言葉が、妙に腹に落ちた。

「悠人、恋愛も仕事もな、待ちすぎたら旬を逃すぞ」

「わかってるよ」

「ほんとか?」

「……たぶん」

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