第14話 ここで勝てなきゃロクデナシ

続いてのうなぎ掴みには、俺と瑞穂は出ない

……というか、俺達が若くて運動できるからって、今までこき使い過ぎだろう。

うなぎはもらえるということで、大好物だという小町さんが参加することになっているが

……コースを見た途端、彼女は悲鳴を上げた。


「なっ、なんで

 ……まな板と包丁があるのおおお?!

 自分で捌いてけって?!」


「そりゃそうでしょ。

 生きたまま連れて帰るつもりだったの?」

俺が言うと、

「少なくとも、うちの地元のお祭りのうなぎ掴みではそうよっ!

 次の日、小学校の鯉や金魚の池に、放たれたヨロヨロのうなぎが泳いでたりしてね!」

「えーーーっ?!

 おねえちゃんとこのおまつり、おもしろーい!」

博貴くんが大爆笑した。

「そ、そうか……

 地元の常識は世間の非常識なのね……」

「というより、地元ならいいですけど、電車でうなぎ連れて帰るのは人の視線も、万が一逃げ出した時もきついでしょう」

瑞穂が冷徹な口ぶりで言った。

「た、たしかに……

 どうしよう、私、内臓見るのダメで、お母さんにやってもらうつもりだったんだけど」

「うーん、新入社員の小町さんにうなぎ掴みとしか言わなかったこっちも悪いし、代わってあげたいけど

 ……競技は男女比が決まってて、女性の代わりに男が出たらズル扱いされるからなあ」

那須野係長が頭を抱えた。


「なるほど、女性の代役を立てないと、うなぎが一匹無駄になってしまうわけですね。

 それはSDGsに反しますね。

 では、私がやりましょう」

みっ、瑞穂

……かっこいいけど

……瑞穂が細長くてヌメヌメして美味しいもの握りしめるって想像しただけで、

直近でうなぎを食べたあの夜のことを思い出すだけで、

俺、もう……


第一、第二レースの面々は、水槽の中のうなぎを掴むのに四苦八苦。

児玉課長など、掴み上げた後に地面に逃げられて、うなぎが砂まみれになる惨劇に見舞われていた。

いつもの威厳のある姿からの落差に、博貴くんは、

「パパ、ヌルヌルからのドロドロ〜」

と言いながらケラケラ笑っていた。


そして第三レース、いよいよ瑞穂参戦。

周りが全員女性なので、うなぎの水槽にいち早く辿り着く瑞穂。

彼女は一気に

……うなぎの首根っこと尻尾を、客席から見てもはっきりわかるほど強く握りしめて持ち上げた!

そして……

まな板に乗せるや否や、無表情で何の迷いもなく、一発で首を叩き落とした!

ヒェッ……

か、勝つという目的を忠実に遂行してるのはわかるよ?

だ、だけど……

本心がバレたら、罰として俺の……もあんな目に遭ってしまうかも?!

でも、とりあえず今晩はうなぎが食べられるよな?

……ゾクッと身震いしながらも、一部分が異様に熱くなっている俺がいた。



最後はリレーだ。

女→男→女→男→女→男の順に走る。

女性のラストはもちろん瑞穂で

……アンカーがまさかの俺。

俺は学生時代は、真面目なサッカー部だから足の速い方ではあったが、それでも同じ部や野球部の上位者やら、陸上部やらがいるから、リレーの選手に選ばれたことすらないのに。

新入社員の相対的な若さ補正がエグすぎる。

緊張で口の中カラカラだよ……

「よーい!」

パーン!


第4走者までは横並びだった。

しかし、第5走者は瑞穂。

白組をぐいぐい引き離してゆく。

揺れる巨砲が俺に向けて迫ってくる……

身悶えしそうな興奮を覚えた。

そ、そして……

彼女が握った……棒が手渡される……


白組のアンカーの加速は強かった。

俺より優秀な運動部か……?


だが、ここで負けるわけにはいかない。

瑞穂に外で盛りまくって嫌な思いをさせて、

小町さんとの約束は守れてるのか怪しくて、

その上、瑞穂のリードを活かせず点数ごと逆転負けしたら


……俺に人としての価値なんてねえんだよ!


俺は逃げた。

無表情の瑞穂と怒り狂った小町さんが包丁を持って追いかけてくるのを想像して、逃げに逃げた。

で、でも

……じわじわ詰められる



……が、ハナ差で逃げきれた!



「わーーーっ!」

赤組一同が俺に走り寄ってきた。

瑞穂が一番早かったので、思わず抱きしめた。

むふっ、と恍惚の表情を浮かべても、今ばかりは許された。

よかった……

とりあえず今晩は生き延びられそうだ……

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