第7話 レジスタンス

Side:斬殺職人


 小僧は少女と歩きながら、笑いを交えて雑談をしている。

 暇なので、俺もじじいと話すことにしてみた。


【斬殺職人:じじいは鍛冶職人だな。よく斬れて頑丈な剣こそ至高だと思うが、どうだ?】

【鍛冶職人:そんなのは3流じゃな。落ちて来る木の葉に剣の刃を当てたとする。お主はどうなると思うんじゃ?】


【斬殺職人:斬れずに木の葉は落ちる】

【鍛冶職人:よく斬れて頑丈な剣を使っておったのじゃろ。斬れんのか?】


【斬殺職人:振れば斬れるが。当てただけでは斬れん】

【鍛冶職人:じゃから3流じゃ。2流の剣は振らずに当たった木の葉が斬れる。ただし刃が薄いので壊れやすいのじゃ。問題はそれだけではないぞ。うっかり、指が当たると、指が落ちる。斬れ過ぎると、かえって害悪じゃ】


【斬殺職人:何が言いたい】

【鍛冶職人:1流の剣はじゃな。持っている人間の意思で、当たった木の葉が斬れたり斬れなかったりするんじゃ】


【斬殺職人:じじいはその剣を打てたのか?】

【鍛冶職人:魔剣ならばな。じゃが魔剣は副作用があるんじゃ。魔剣でなくて、普通の剣でそれを実現すべく精進しとる】


【斬殺職人:ふん。やっぱり俺にはよく斬れて頑丈な剣こそ至高だな】

【鍛冶職人:頑固な奴じゃ】


 一見、廃屋に見える建物に入り。

 敷物を剥がし、現れた木の板をどける。

 地下への階段を降りて、部屋に入った。

 中には何にもの人間がいる。


 ヴルツェル・イーゲル流レジスタンスのアジトに着いたようだな。

 小僧に殺気が向けられているが、気づいてないのか。

 子供にしては胆力があるのか。

 いいや、鈍いだけだろ。


「ツィトローネ、この子供を何でアジトに連れてきた? 見たところ、鍛冶師見習いに見えるんだが」

「聞いて、この子はヴルツェルの銅像を斬ったの。剣の一閃でね」


「へっ、嘘だろ。どっから見ても素人だ」

「俺もそう思う」

「ペテンのカラクリがあるのかも知れない。鍛冶師なら金属を扱うのはお手の物だ。剣でなくて鍛冶系のスキルを使ったのかもな」


「でも、銅像を破壊したってことは、ヴルツェルに恨みがあるってことでしょ。レジスタンスに加わる理由としてはありじゃない」


 俺がヴルツェルだから、もちろん自分自身に恨みなどない。


【斬殺職人:恨みなんてない。イラついたから斬った。それだけだ】


「恨みはないって。イラついたから斬ったみたい」

「えっ!」


「ここを知られたら、生きたまま帰せないな」

「私とそんなに変わらない、子供なのよ。何かの役に立つかも知れないでしょ」


【鍛冶職人:坊主どうしたい? お前さん次第じゃ】


「ええと、死にたくないんだけど。他人が死ぬのも嫌だし。困りました」


「やばい感じがする。この子供はやばい。怖がってないぞ」

「おお、ペテンでもなんでも、銅像が斬れるなら、確かにやばい」

「でも素人なんだよな。殺気もないし」

「どうするよ」

「ツィトローネ、お前が連れてきたんだから何とかしろ」


「ええと、まずはお友達から。自己紹介するね。もう名前は知ってると思うけど、私はツィトローネ。イーゲル流の門弟に両親を殺害されて孤児なの。ここにいるみんなは似たり寄ったりなんだけど」

「可哀想。僕はメモアーレン。貴族の長男だったんだけど、無能だって勘当されちゃった」


「えっ、なのに銅像を斬ったの」

「うん、死霊術師系のスキルがあって、斬殺職人って人の魂を使えるんだ」


「やば過ぎる。よりによって禁忌スキル持ちかよ。しかも、斬殺職人! めちゃくちゃ物騒な二つ名だ! 今日が俺達の命日かもな」

「教会に知られたら、やばいな」

「しかも俺達に喋ったってことは、このガキは俺達なんか軽く皆殺しにできるってことだ」

「厄日だ」


「メモアーレン君、私達を殺さないよね」

「うん、血は嫌いだし、人が死ぬのも見たくない」


「まともそうで良かったぜ」

「どうするんだよこんなの。仲間にしたら、教会を敵に回す」

「戦力としては凄い使えるんだが。くそう、禁忌スキルじゃなきゃな」


【斬殺職人:めんどくさいな。小僧、皆殺しだ。斬らせろ】

【鍛冶職人:お主、職人を名乗るなら職人の矜持はないのか?】


【斬殺職人:あるぜ。必要ある場合を除き、立ち合いに承諾した強い奴しか斬らん】

【鍛冶職人:坊主、そういうことじゃな】


「ええと、僕としては追っ手がいるから、ここにいると皆さんに迷惑が掛かります。路銀をもらったら、旅に出て、アジトの場所は忘れます」


【斬殺職人:小僧、イーゲル流は皆殺しだ】


「ええと、斬殺職人さんはイーゲル流を皆殺しにしたいらしいです。路銀の貰う代わりに、イーゲル流を懲らしめても良いと思います。僕としては殺しはなしにしたいです」


【斬殺職人:駄目だ。皆殺しだ】

【鍛冶職人:坊主はわし達の領主様じゃからな。従うしかないじゃろ】


「懲らしめるだけじゃ満足できない」

「そうだな」

「だが、このガキは旅に出る。レジスタンスの依頼だとばれなきゃ、懲らしめてくれるだけでも気分が良い」

「私も懲らしめて貰いたい」

「仕方ない。それで手を打つか」


【斬殺職人:俺は納得いかん】


「斬殺職人さんが納得してくれないので、しばらく厄介になります」

「おう、短い間だと思うが、よろしく」


 これだから、名君は始末に負えない。

 そういう奴と言えば、確か……。


       ◇◆◇


「狂剣ヴルツェルよ、頭を上げてよいぞ」

「おうよ」


 頭を上げて観察する。

 こいつが錬金王か。

 普通のおっさんに見える。

 簡単に斬り殺せそうだな。

 統一戦争を起こした王というから、さぞかし強い奴かと思ったのだが、つまらん。

 斬る価値もない。

 生産系なら、こんなものか。


「そちのおかげで、戦死する者が大幅に減った。礼を言うぞ。ありがとう」

「どうも」


「さっきから王に対してその態度はなんだ!」


 騎士のひとりが激高してた。

 掛かってきたら、こいつの剣を奪って、ここにいる人間を皆殺しにしたのにな。

 そんなことを考えてたな。

 やったら、たぶん半分は殺せたが、死んでたな。

 若かった。

 数の力に対応できたら、最強なのだろう。

 山脈を斬れるぐらいなら、可能か。


 今の小僧の体でも、よほど強い奴でなければ、1対1で負けることはない。

 魔法使いでもな。

 魔法を斬るぐらい余裕だ。

 だが、最強の道は遠い。


「よい、許す」


 錬金王の言葉で、騎士達の殺気が消えた。


「何人か斬ってみたい奴がいたので残念だ」

「ふむ、助けられた者の中には何人もの、かけがえのない友がいた。友以外の人間もわしは死んで欲しくないと思っている。敵でさえな。ヴルツェルよ、わしの友にならんか?」


 今にして思えば錬金王に器で負けていた。


「友か? そんなことを言われたのは初めてだ。だが気に入った。よし、錬金王をお前は友だ」

「わしもざっくばらんに話すぞ。お前は何というか手入れのなってない剣だ」


「どんなところがだ?」

「誰構わず、斬り殺すと聞いているぞ。それになんの意味がある?」


「意味か。最強を目指している。戦えば戦うほど強くなる。そう思っている」

「それが間違いとはわしは言わん。だが、お前の剣はそのために、曇っている。ルールを設定したらどうだ。職人も絶対に守るルールを設定している」


「ルールか。よし、必要がなければ、殺さない。強い奴以外は無視だ。卑怯なことは絶対にしない。強い奴に立ち合いを申し込み、承諾したら殺し合いをする。俺は今から、惨殺職人を名乗ろう」

「狂剣より、ましになったな。友よ、金貨1万枚と、最高級ポーション10本と、宝物庫にある好きな剣を一振り下賜してやる」


「おう、ありがとな」


 あの剣は良かったな。

 切れ味が良く、頑丈で、3年間使えた。

 確か作った鍛冶師の名前はバンブスだったな。


       ◇◆◇


 錬金王は人間としての魅力が俺より強かった。

 今ならその強さが判る。

 剣士には必要ない強さだが、そういう強さもあると認めても良い。

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