第3話 未来の夢

Side:鍛冶職人スケルトン親方


【鍛冶職人:ここいら一帯はあのクマの縄張りじゃ。もう、街道までモンスターはおらんじゃろ】

「本当に道を知ってたんですね」


【鍛冶職人:大岩とクマで完全に思い出した】

「じゃあ、それまでは半信半疑だったんですか?」


【鍛冶職人:かかか。それが旅というものじゃ。迷って道草して想い出になる。今日は雨が降りそうにないから、ここで野宿じゃな。薪を集めて火を起こすんじゃ】

「こういうのをやってみたかったんです。錬金王物語の始まりがこんな感じでしたから。ところで薪ってどう集めるんですか?」


 錬金王か、懐かしいのう。

 まだ、その名前が残っておったか。

 錬金王の名前は消され、魔王に塗り替えられたんじゃ。

 錬金王物語は焚書されて。禁書指定されたと聞いたんじゃがな。

 悲しいことじゃ。


【鍛冶職人:薪の集め方も知らんとは、何も知らん奴じゃな。まあ、貴族の子供じゃ仕方ないわい。重い枝は生木。じゃから、軽い枝を選んで集めるんじゃ】

「物語にはそんなことは載ってませんよ」


【鍛冶職人:そうじゃろな】


 坊主の限界が近い。

 ここで火を焚くと恐らく、殺し屋に場所を教えるようなものじゃな。

 じゃが、ここで罠を張るしかないじゃろ。

 街中で殺しは不味い。


 モンスターだったわしの言うことでもないんじゃが。

 わしはまだまだ鍛冶をしたいんじゃ。

 坊主が牢屋行きなんぞ、許容できんわい。


 じゃから、ここで殺し屋を返り討ちじゃ。

 坊主は子供じゃから、油断してたら良いのじゃがのう。

 おそらくクマを殺した痕跡は見逃さんじゃろ。

 捨てる内臓などもスキルで収納したんじゃがな。


「薪を集めました」


【鍛冶職人:偉いぞ。わしが見張りをやる。交代じゃ】

「【職人魂】師匠。メモアーレン:頼み……】


 坊主は寝よったな。

 怠くて睡魔が襲ってくるが、このなの屁でもないわい。

 1週間徹夜で、作品を仕上げたこともある。

 わしを舐めんなよ。

 睡魔なぞには負けん。


 火を起こし、毒蛇とクマ肉を串に刺し、焼き始める。

 肉汁がぽたぽたと垂れて、燃える薪に当たってジュっと音を立てる。

 肉が焼ける美味そうな匂いが漂った。


 そろそろ良いじゃろ。

 収納スキルの中に調味料が入っていて良かったわい。


 かぶりつく。

 肉は驚くほど柔らかい。

 モンスターの特性じゃ。

 モンスターは魔力で肉体を強化しとる。

 じゃから、魔力が筋肉の役割をしてて、肉は脂肪が多い。

 殺して肉になると驚くほど柔らかくて美味いんじゃ。


 いやあ、食った食った。

 満腹じゃ。


 生前を思い出したわい。

 食事も楽しいもんじゃな。


 横になる。

 半分眠りに入った。

 寝てるが、寝とらん。

 鍛冶にはほとんど関係ない、つまらん余技じゃな。

 寝ててもハンマーを振るえるが、それだけじゃ。

 半分寝てて、最高の仕事なぞできん。


 そう言えば、シュパルゲルと焚火を囲んで将来の夢を語り合った。


       ◇◆◇


 パチパチと燃えた薪がはぜる。


「俺は王国一の鍛冶職人になる」

「じゃ、俺は世界一の薬師だな」


「くそっ、スケールで負けた。だが、お前は薬師の才能がない」

「薬師でないお前に何が分かる!」


「怒ったのか?」

「いや、才能を誇っても意味がない。努力と何を成したかを誇るべきだ。師匠の受け売りだけど」


 その実績がへぼ薬師なんだよと喉まで出かかったが、これ以上怒らせると喧嘩になりそうだったから控えたんじゃが。

 今にして思えば、優しく諭してやれば良かったわい。


 坊主は鍛冶に向いとらん。

 諦めさせたいが、破門すると心に傷が残るじゃろな。


 生前のわしは無茶苦茶じゃった。

 悪事にも手を染めたし、良いこともたくさんした。

 天才だと死ぬまで、天狗になっとった。


 破門したことで弟子の人生が悪い方にねじ曲がったことも一度ではない。

 才能はなかったが、人間的にはシュパルゲルの方がわしの何倍もましじゃな。

 わしには誇れる成果などひとつもありゃせん。


「じゃ世界一の剣を作る」

「俺は世界中を幸せにする薬だ」


 この一言だけでも、わしとシュパルゲル差が良く判る。

 わしは最強の剣を作ることしか考えてなかった。

 シュパルゲルはみんなの幸せを願っとった。

 まあ、腕はやぶじゃったが、12歳の坊主では致し方ない。

 12歳としては良くやってた方じゃな。

 秀才ぐらいの評価はあげてもバチは当たらんかも知れんな。


「シュパルゲルはなんで旅に? 俺は口減らしだ。良くあることさ」

「師匠が亡くなって、兄弟子が跡を継いだ。俺は兄弟子と反りが合わなかったから、旅に出た。師匠と同じ病気の人がいたら、治したい。それが師匠への恩返しだと思うんだ」


「俺は誰にも貸し借りなんてないな。いや、少し恨んでる。村から追放なんて、死ねと言っているのと同じだ。いつか見返してやりたい」

「誰も助けてくれなかったのか?」


「ああ、誰もな」

「俺は村で、邪険されたり、親切にされたり色々だったけど。理由を聞くと納得できたし、大抵は許せたよ。兄弟子だって許している」


 いまにして思えば、シュパルゲルは親切だったな。

 俺のことなんか放っておいても良かったのに。

 誰も親切にしてくれなかったと言ったが、シュパルゲルには感謝してるぐらい言っても良かった。

 あの頃は子供じゃったからな。

 シュパルゲルは大人じゃった。

 薬師という人の生死に関わる仕事をしてたせいじゃろう。


 バチッ、薪が爆ぜて火の粉が上がる。


「シュパルゲルは神官みたいだな」

「人を救うということでは薬師も同じだよ」


「神官は嫌いだが、お前はそうでもない。何でそうなのか上手く説明できないや」

「全てが判ったら、神様だよ」


 神になってやる。

 そんな傲慢なことを考えとったな。

 今にして思えば滑稽なことよ。

 世界一に成れたか、自分では自信がないわい。

 かなり良い線を行ったと思ったんじゃが、大抵は上には上がいるもんじゃ。

 今でもっても、頂は見えん。


       ◇◆◇


 坊主の魂は良く寝ておる。

 魂も疲れるんじゃな。

 新しい発見じゃ。


 焚火を前に飲み食いするとなぜか饒舌になる。

 酒でもあるとなおさらじゃな。

 飲みたくなってきおったわい。

 子供の体にはちと毒じゃろうな。


 坊主にはなぜか親切にしてやろうという気になる。

 何でそうなのか上手く説明できないんじゃが、全てが判ったら神様じゃったな。

 欠片も理由が判らん。

 神への到達は遥か彼方ってことかのう。

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