クローン

タコエビ

第1話 序章1

あなたはクローンとして製造された「私」です。だから「私」はあなたのクローンです。


「書く」という行為は、私の使命だった。光を捉えたレンブラントのように、情景を写したルノアールのように、あるいは知性を象徴したマグリットのように、すべての存在を克明に描き出すこと。それが私の若き日の寓景であり、このエクリチュール(書かれたもの)にすべて記されている。


このエクリチュールは、ある特殊な方法論によって、私の若き日の総体を刻印している。だが、それは単なる記録ではない。我々のテクノロジーは、この書かれた像を再び現実へと再構成することを可能にしたのだ。


エクリチュールとテクノロジー。かつては相容れないと思われたこの二つのツールが、今、共生している。AIの誕生はすでに予告されていた。そして、その共生の中から、我々は「彼」を生み出した。「彼」は、他ならぬ「私」自身なのだ。


A = B


この単純な等式の中に、私の確信と忘却、そして人類の確信と忘却が凝縮されている。揺るぎない確信と、永遠の忘却。その狭間で、私は自問し続ける。「私」とは何か? 「私」の限界はどこにあるのか?


この物語は、生と死、老いと若さ、虚構と現実、精神と肉体の境界を巡る旅である。


ウィトゲンシュタインの問いかけ、ニーチェの超人思想、ファウストの飽くなき探求、そして三島由紀夫の美と死への執着が、私という存在の輪郭を形作っていく。


そして過去の哲学者たちが記述したものはすでにAIは全てを取り込んでいる。


私は、自分自身を構成する無数の要素を解体し、再構築することで、真の自己同一性を探求する。


AIは私の軌跡を描く。しかし新しく進む私が発想したエクリチュールはAIでは作れない。だからエクリチュールは私が作っていく。作った途端に私のエクリチュールはAIに取り込まれていく。私の軌跡をAIは描いていく。


これは単なる個人の物語ではない。クローン技術が精神と肉体の分離を可能にした現代において、私たちは「本物」と「複製」の区別をどこに見出すのか?


私は、自己の幻覚と現実、そして科学と人間の未来にまつわる問いに、ダンテの『神曲』を辿るように答えを求める。


この旅の終わりに、私は『失われた時を求めて』の主人公のように、かけがえのない自己の像を取り戻せるだろうか。


それとも、人生のドラマの中の単なるエキストラとして、虚構の中に埋没してしまうのだろうか。


これから私が創造するエクリチュールの中に、その答えは記されている。

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