花天月地【第79話 光が射す】

七海ポルカ

第1話



 天水てんすい砦の灯りが見えた。


 こんな涼州の冬の気候には慣れたものだと思い込んでいたが、灯りが見えた時、存外やっと休めると安堵したので、自分もいよいよ魏の人間としての感覚の方がずっと強くなってきたのだと賈詡かくは自覚した。


 風が強い。


 雪が顔に吹き付けて来る。


(俺も今まで涼州出身者だと重宝がられて来たが。蜀には馬超ばちょうと涼州騎馬隊が合流した。

 これからはあまり、遠い昔の実績を理由に涼州における重責を任されるのは避けた方がいいかもしれんな)


 幸い、龐徳ほうとくがとりあえずは張遼ちょうりょう軍を率いて巡回行軍に出陣してくれた。


 張遼軍と摩擦が起きず、龐徳が今後も自刃せず、魏に降伏することを決めれば天水付近の指揮は龐徳に任せるのはいいかもしれない。

 長安ちょうあんなどに戻せば恐らく罪悪の念と怒りとで、実直なあの男は駄目になるだろうが、涼州に留め置けば馬超ともいい戦いはするはずだ。


 賈詡も自分が重用されているのが分かっているので、今までは涼州方面に赴任して来たが、俺様の知謀は涼州を問わず働くんだからそろそろこの陰鬱な記憶の残る土地とは縁を切っても許されるだろうなどと考え、天水砦までやって来た。

 駐屯部隊が出迎える。

 全身雪まみれだ。

 

「この雪は数日降り積もる。寒さに備えろ。

 祁山きざん方面の見張りは十分展開させて来た。

 夜襲の可能性は低い。見張りは更に減らしていい。

 ただ、火は絶やすな」


「ハッ!」


 賈詡の乗って来た馬を副官が預かり、砦の中にある庭の方へ連れて行く。


祁山きざんはともかく、北に偵察に行かせた楽進がくしんが心配だな。

 あいつは野生の勘が働くし、十分雪を警戒しろとは伝えたから遭難はしないと思うが」


「そのことですが、賈詡将軍……」


 もう一人の補佐官が、声を掛けて来た。



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