テスト勉強

夏休みが近づく中

俺――乾政宗は、ただでさえ忙しい定期テスト対策に追われていた。

だが、頭の片隅にはいつもあの「禁欲ゲージ」のことがちらつく。


「今日こそは使わずに耐えきる……でも、もうギリギリなんだよなあ」


そんな俺の葛藤をよそに、放課後の教室は少しずつ静かになり、ヒロインの浅草寺流華もノートを片手に現れた。


「あの、乾くん……よかったら、勉強一緒にしない?」

彼女の声に、俺の心臓は小刻みに跳ねた。

(えっ? 一緒に? 俺と?)

彼女は少し恥ずかしそうに微笑みながら、俺の隣に腰掛けた。


教科書を開いて問題を解き始める。


「ここ、わからないんだよね……教えてくれる?」


と流華が小声で言う。

俺はスマートに解説しようとするが、緊張で声が少し震える。

すると、ふとした瞬間、手が重なってしまい……。


「ご、ごめん!」

「ううん、大丈夫」


彼女の瞳がゆっくりこちらを見つめる。

そんな時間が長く続く。

その日の俺は、いつも以上に禁欲ゲージが点滅しているのを感じた。


問題集のページをめくるたび、隣にいる流華の柔らかそうな肩や、彼女が息を吐くたびに感じる甘い香りが、俺の理性を試す。


「なんで、こんなに近いんだよ……!」


心の中で叫びながらも、俺は我慢する。


「乾くんって、結構頼りになるんだね」


流華がぽつりと言った。


「いや、そんなことないよ」


と答えつつ、少し照れくさい感覚だった。


夕暮れが教室の窓から差し込み、時計の針は放課後を告げていた。


「じゃあ、今日はここまでにしようか」


流華がゆっくりとノートを閉じる。

俺も鞄を背負いながら、自然と声をかけた。


「一緒に帰ろうか?」


彼女は一瞬戸惑ったように目を伏せたけれど、すぐに小さく頷く。


「うん、いいよ」


二人で教室を出て、校門をくぐると、夕焼け空が赤く染まっている。

並んで歩く距離は、普段よりもずっと近く感じて、心臓の鼓動が早くなるのを抑えきれなかった。


「浅草寺って、家は遠いの?」


俺が話しかけると、彼女はゆっくり答えた。


「そうね、ちょっとだけ遠いかな……でも、こうやって誰かと一緒に歩くのは初めてかも」

その言葉に胸が締め付けられた。

「俺も、普段はあんまり人と帰らないから」

歩くたびに感じる彼女の気配が、妙にリアルで、温かくて、でもどこか切なくて。

「ねぇ、乾くん」


突然、流華が小さな声で呼びかける。


「今日、ありがとう。勉強も、帰り道も……なんだか、安心した」俺は笑って答えた。

「俺もだよ。次のテストも、一緒に頑張ろう」


その言葉が、どこか約束のように響いた。

夕暮れの風が二人の間を通り抜け、静かな帰り道は、まだまだ終わりたくない気持ちで満たされていた。

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HIGH SCHOOL 禁欲 DAYS @nakayosikoyosi

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