恋のABC

「わかった。じゃあ、少しだけ話すよ」


俺は、浅草寺の真剣な視線に押されるようにして、“禁欲ゲージ” の話を始めた。


「実は……ある日、変な夢を見たんだ。」


「変な夢…?」


「変な神様が出てきて、“禁欲を続ければ願いが叶う” って言われたんだよ。


で、その証拠っていうか、体に“ゲージ”が現れるようになったんだ」


「ゲージ……?」


「そう。手の甲にバーみたいなやつがあって、それが禁欲を続けると溜まっていく仕組みでさ。……いや、自分でも言っててわけわかんないんだけど」


浅草寺は、じっと俺の手の甲を見つめ、触れた瞬間見えるようになったのだろう。


「……これが?」


彼女の指が、そっと俺の手に触れた。


「……本当に、あるんだね。なんだか、ちょっと信じられないけど」


「まあ、俺だって信じたくなかったよ。でも、これのおかげで……今のところ、大きな問題は起きてない。むしろ、少しずつだけど願いも……叶ってる気がする」


「願い……って、どんな?」


やばい。ここで「美少女とムフフな生活がしたい」とか言えるわけがない。


「えっと……とりあえず、普通に楽しい高校生活が送りたいってやつかな。友達とか、恋とか……そういうの」


「ふぅん……」

浅草寺は、少し口元を緩めて、俺をじっと見つめてきた。


「でも、それってさ……禁欲しなきゃいけないんだよね?」


「まあ、そういうことになるな」


「……つまり、我慢しないといけないんだ?」


「そ、そういう……ことになる」


「じゃあさ……私とこうして話したり、距離が近くなったりすると、そのゲージって……どうなるのかな?」


浅草寺は顔を赤らめながら、急に一歩近づいてきた。俺と彼女の距離は、もはや数十センチ。


「えっ……それは……たぶん……上がりやすくなるというか、むしろ……危険というか…ここ学校だし誰かに見られたらやばいよ」


「ふふ……」


彼女は、イタズラっぽく笑った。

急に距離が近くなってるが、これは願い事が叶ってきてるのかもしれない。


彼女は続けて、

「乾君って、ちょっと面白いね。じゃあ、もし――私が、もうちょっと“攻めたこと”してみたら……ゲージって、どうなるんだろうね?」


「えっ、攻めた……って?」


「たとえば――こういうのとか?」


その言葉と同時に、流華は俺の耳元に顔を寄せて、そっと囁い


「……ちょっとだけ、政宗くんの好きなとこ触ってもいいよ?」


「っ……!?」


「冗談だよ」


浅草寺は、頬を赤く染めながら、少しだけ笑った。


「……ごめんね、乾くんを揶揄うのが楽しくなっちゃって、、」


「……ううん、でもこれ以上は耐えるかわかんないかも……」


「じゃあさ――今度、試してみよっか。“どこまで我慢できるか”っていうの」


そう言って、浅草寺は俺の手を取った。

ほんの数秒。だけど、その間に“禁欲ゲージ”は――確実に震え始めていた。

――つづく

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