第7話: 九州コレクション - 夏の港で

真夏の福岡。

アスファルトの熱を反射する陽光の中、会場の白いテントが、まるで蜃気楼のように揺れていた。


ファッションブランド「LIVIERA」が"九州コレクション"への進出を賭けて仕掛けた一大プロジェクト。


依頼は、慶彦自身の過去の実績──東京コレクションでの演出──を高く評価したブランド代表からの直々のものだった。


「正直、もう舞台からは距離を置いていて──」


そう答えかけたとき、代表は言った。


「でも、あの『光』を撮れるのは、あなたしかいないと思ったんです」


その言葉に、慶彦の中の何かが、静かに動き出していた。


******


モデルたちは各地から集まり、キャットウォーク脇では、現地メディアが慌ただしく動き、子ども服ブランドの新作を撮るための準備が進んでいた。


その熱気の中、慶彦はただファインダー越しに、少女たちの無邪気な笑顔と、まばゆい衣装のひるがえりを追っていた。


午後、少し雲が出始め、逆光の時間帯が訪れる。ステージの端、ふと見上げると、客席の外れに一人の少女が座っていた。


──彼女も、未来のランウェイを夢見ているのだろうか。


慶彦はそっと、その姿をフレームに収めた。


******


撮影を終えた翌日。


せっかく福岡に来たのだからと、彼は列車に揺られて門司港を目指していた。駅を降りた瞬間、熱気の中にほんのわずか潮の匂いが混ざる。


港沿いを歩きながら、彼は手にしていた封筒から一枚の絵葉書を取り出す。


——————

美佳へ


『ここの光は、どこか神戸にも似ていた。けれど、君の街より、少しだけ海が広いかもしれない』

——————


そう書き添え、近くのポストに投函した。


風が、ふいに吹いた。


港の水面がきらりと反射し、彼は思わずカメラを構えた。

それは、娘への返事でも、未来への記録でもあった。

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