特急列車

義為

本編

「じゃ!」



 君の声は、よく通る。やわらかい。あたたかい。それでいて。強い。透き通る。

 それでも、人の声でしかない。

 僕らが立つのは別のホーム。毎日繰り返す君とのサヨナラは、毎日同じ特急列車に遮られる。遮られていた。今日だけは、音が一つ。だったから。



「にしても、アイツ、スゲーよな〜!オーストラリア?」

「オーストリアな。一文字違いで地球の反対側だから」

 持ち主を失くした机は窓際後ろから2番目。つい目が行ってしまうのを、この男は見逃してくれなかった。

「どっちにしろ、abroadだろ?overseaだろ?foreignだろ?」

「まあね、よく知らんわ」

 そう。知らない。彼女はどんな楽器も弾けたから、チェロの奏者だとは知らなかった。

「そそ、あんなお嬢様、オレらとは違う世界に住んでんのよ。物理的にも分かりやすいじゃん?」

「それな!」



 それな。ありがとう。そういうことにしておこう。



「じゃ!」



 あの一音には、続きがあったのだろうか。



「また……」



 あのニ音には、続きがあった。



 あの特急列車が攫っていくのは、三音目。そういうことだ。そういうことに、しておこう。

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特急列車 義為 @ghithewriter

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