クラウドナイン3rd BAE

みなかみもと

プロローグ

プロローグ

 一人は孤独だ。

 だが、孤独は、自由だ。

 そう思って生きてきた。


 それなのに。

 何故、俺は今走っているんだ?


 降りしきる豪雨の中、一路目的の場所に向かって走り続ける自分に、タジャは脳内で何度も疑問を投げかける。

 何をしている?

 何故、こんなことをしている?

 

 だが脚は止まることはない。雨の強さは更に勢いを増し行く手を阻むというのに、立ち止まることもなく一路駆ける己に、訳が分からなかった。


「美女は誰が見てもきれいなんだよ」


 ふと耳の奥で、余裕のある女の声が聞こえた。


「でもね。イイ女は、見る人を狂わせるんだ」

 

 狂わされているのか俺は?

 深夜、豪雨の線路脇を走り続ける自分に対して、別の自分が「その通りだ」と呟いた。

 イイ女とは、誰のことだ?

 そもそも他人に興味を持つことは無かったし、そうあろうと思ったことも無かったというのに。

 それでも思い出すのは、電話口で聞こえた寂しげな声だ。

 穏やかで、静かな声だったのに、何故寂しげと思ったのか。


 だから走るのか。

 だから今、俺は走っているのか。


 この熱い気持ちを、人はどんな名前で呼んでいるのだろうか。

 冷たく激しい雨が止む気配は、無い。

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