愛すべきものの為に

!~よたみてい書

第1話

7月10日 日曜日 夜5時10分


 好田緒すきだお 大豆だいずは、自宅の玄関を開けるなり、リビングの椅子に座り込んだ。

にやけた表情を浮かべながら、メグミの体全体を吟味する。

観察を終えると、彼は薄い衣をそっと指先でつまんだ。


「さぁ、脱いじゃおうか。俺に美しい体を見せてごらん」


メグミは微動だにせず、大豆の接触を受け入れる。

大豆はメグミの衣をゆっくりと脱がし、包まれていた体をあらわにした。


「なんて綺麗なんだ……」


息を飲み、メグミの体を凝視した。

しかし、メグミの体はまだ別の衣によって守られていた。


「もっとよく見せて」


彼は優しい笑みを浮かべながらメグミの体に手を近づけた。

そして、メグミの体にそっと触れ、バリバリッという音を鳴らしながら解放させた。


 大豆はメグミの大事な部分が露わになった姿を見て、一瞬体を震わせる。

それから、メグミに顔を近づけると鼻孔を広げ、深く息を吸い込む。

メグミは彼を拒むことを一切せず、静かに佇んでいる。


「いいかほり」


 大豆がメグミのおもてなしを味わうと、目をゆっくり閉じ、唇の端をゆるませていく。


 また、メグミはまだ最後の薄い透き通った衣を身にまとっていて、自身を守っていた。

大豆はメグミの薄い衣に手を近づけ、メグミの所有物の小さな袋と一緒に最後の守りを取り除く。


「もう君を守るものは何もないね」


彼は嬉々とした表情で、小さな袋の端を切った。

それから、袋の中に詰まっていた液体を、ゆっくりと、メグミの体に注いでいく。

液体は淡い色合いで、サラサラしていて、メグミの体中に広がっていった。

メグミの体の谷間へと潜り込むように、液体が逃げ道を探し続ける。


 大豆は近くの棚から箸を二本取り出し、メグミの元に戻った。

そして、彼はメグミの体の中心部に目掛けて箸を添えていき、体の中にゆっくりと挿入していく。


『ヌププッ』


大豆は微笑しながら箸でゆっくりとかき混ぜる。

すると、メグミの体の中に、いつの間にか粘り気が発生し、彼の箸との間に糸が出来上がっていた。

メグミは彼の行動をただじっと受け入れるだけだ。




7月9日 土曜日 午前8時38分


 大豆は、目を細めながらスマートフォンを握りしめた。

通知にあったのは、メグミが本日から到着する日ということ。

彼はすぐに身支度を済ませ、自宅から離れていく。


 彼は、コンビニ、スーパー、ドラッグストア、あらゆる場所を探して足を動かし続けた。

だけど、どこにも、メグミの姿はない。

大豆は不満そうな顔を浮かべながら足を止めないでいた。




7月10日 日曜日 午前9時20分


 大豆は、今度は大型スーパー巡りに繰り出した。

駐車場まで埋まる賑わいの中、食品売り場へまっすぐ足を向ける。

彼は助けを求めるかのように、スーパーの店員に尋ねた。

しかし、帰ってくる返事は、彼が望んでいるものではなかった。

店員の返答を聞いて、焦りと不安の表情がだんだんと濃くなっていく。


 それから、別店舗の店員に同じ質問を繰り返し、いつもの返答が返ってくるたびに、彼の表情が硬くなる。

大豆は大きなため息をつき、自宅方面の帰路に足を踏み出す。

しかし、彼は踵を返し、遠方の大きな建物へ向かった。




7月10日 日曜日 午後1時35分


 そして、次の店舗に足を運んだところで、ついに彼は歓声をあげた。


「メグミっ!?」


 彼は店内で声を響かせながら、メグミを腕で抱きしめる。

清潔感のある艶やかな衣装を身にまとったメグミは、彼に抵抗する気配はない。


 大豆はその後、メグミと一緒に家に帰る足取りはまるで踊るようだった。




7月10日 日曜日 夜5時20分


 メグミの体は液体と大豆の施しによって、艶やかでヌルヌルした姿に変わっていた。

 その姿は、自分を受け入れてほしいという合図となり、大豆は動かしていた手を止める。


「準備が出来たね」


 彼はメグミを自分に寄せていく。

そして、口の中に、白い婚礼衣装をまとったメグミを運ぶ。


「う……うまい……!」


 思わず声を漏らし、箸を震わせた。


「この新商品、魚介出汁を使ってるのかな? まさに、『海の恵み』の名前通りの納豆だ。次見かけたらストックしておこう」


 大豆はパックを空にするまで、一口一口を慈しむように味わい尽くし、最後の一粒が容器から消えたとき、彼は満足げに大きく頷いた。

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