そうじゃない(ショートショート)
なるみやくみ
第1話
私は猫が好きだ。
猫を見かけると思わず挨拶して話しかけてしまう。飼い主のほうではない、猫に、だ。
よく怪しまれるが私は気にしていない。
私は散歩も好きだ。
毎日の日課だ。
同じ時間に家を出ないと気がすまないので、変人と思われているが私は気にしていない。
しかし大好きな散歩の途中であっても、猫に出会ったら、散歩よりも猫だ。
それくらいは猫が好きだ。
でも私は猫を飼っていない。猫を飼い始めたら猫を置いて家から出られなくなってしまいそうで、猫を飼うことに踏み切れないでいる。
仕方がないので、今のところはよそのお宅で飼われている猫や野良猫に相手をしてもらって気を紛らわせている。
そんな私がいつものように散歩に出かけたときのことだ。
いつもと同じように同じ時間に散歩に出かける。
十分ほど歩いた頃だろうか。
散歩で通りかかる時間にはいつもお留守のお宅の前を通りかかると、家主の人間が1匹の猫を抱いて玄関先に立っていた。
家主の人間のほうには散歩以外で通りかかったときに何度も会っている。
挨拶する以外にも何度か少々のおしゃべりをしたこともあったが、猫を飼っているのは聞いたことがなかった。
「こんにちは」
私は家主に抱えられている猫に挨拶した。かわいいハチワレの猫だ。
「ああ、こんにちは」
猫を抱えている家主の人間が猫の代わりに挨拶を返してくれた。
「かわいいなぁ」
「先月から飼い始めたんです。保護猫を引き取って」
「お名前は?」
「え?うちは伊集院です」
「え?」
視界の隅の表札を確認すると、『伊集院』と書かれていた。
いや、そうじゃない。
そうじゃない(ショートショート) なるみやくみ @kuminarumiya
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