エウレーカ!
@divi74
第1話
「今、私はいわくつきの廃墟に来ております。」
虫の鳴き声が響く真夏の深夜に男は森の中の廃墟にいた。廃墟の中は割れた窓ガラスやそのままにされた家具が散乱しており、昼間でも立ち入るのは難しそうである。
その廃墟の中を男は臆せずに進む。
「この部屋です。ここでこの建物のオーナーが焼身自殺したといわれており……」
そう言うと、男は廃墟の一室に入ろうとした時、耳をつんざくような悲鳴が鳴り響く。男性の声であるが、廃墟に立ち入ったこの男のものではない。男は悲鳴に少しだけ怯んだ様子を見せるが、ためらうことなく部屋に入る。部屋の中は他の場所と同じようにものが散乱しているが、窓際の一部だけ焼け焦げた後のような黒ずみができていた。その黒ずみは、床面から壁をつたって天井まで続いており、ここで何かが燃えた跡というのは間違いなさそうである。
「あの黒ずんだところで、経営難に陥ったオーナーが自殺したと言われています。」
そう言って男が指差すと、黒ずみがゆらりゆらりと動き始めた。目の錯覚だと思った男は、黒ずんだ場所を凝視する。すると黒ずみから腕のようなものが這い出てきた。あまりの出来事に男は動くことができない。ただ脂汗を流しながら凝視するのみである。腕は這いずるようにこちらに向かってきて次は頭部のようなものまで見える。ここまで、来たところで男は我を取り戻すと一目散に廃墟の出口まで走り始めた。
「菱山、できたぞ~」
竹中はついさっきまで画面の中にいた男に話しかける。画面の中の男は菱山健吾、大学二年生でホラースポット巡りが趣味の男だ。
「お、ありがとな~。」
と先ほどまで竹中が操作していたパソコンの画面を見る。
「悲鳴に、黒い影……ちゃんと入ってるな。このままアップするか。」
菱山はそう言うと、動画ファイルを配信サイトにドラッグアンドドロップした。
「毎回思うけどよ、いいのかこんな罰当たりなことして……」
そう言って及び腰になっているのは竹中久、菱山の同学年で特技は動画編集の男である。
「大丈夫だよ。ホラースポットになってるのは事実だが、オーナーが焼身自殺したというのはただの噂話、あの黒ずみも大方忍び込んだチンピラが焚き火でもやってできたんだろう。」
菱山健吾はホラースポット巡りが趣味だが、心霊現象というものにはドライである。数々のホラースポットを調べ、巡った結果、遂に幽霊というものに出会うことなく、ホラースポットにまつわる事件というもののも確証のない噂話であることが多かったためである。現在では竹中に依頼して幽霊などを合成した映像を動画サイトにアップしているほどである。
「でもよう……本当に幽霊がいたらよう……」
弱音を吐く竹中に菱山は語気を強めて言う
「大体なあ、ホラースポットは山奥の廃墟、使われてないトンネル、町中でも決して立ち入らないところばかりだ。なぜだかわかるか?それはホラースポットというものを日常から切り離すためだ。常日頃から幽霊に祟られるってなったら溜まったものじゃないからな。だから、決して立ち入らない場所をホラースポットにしてるんだよ。そしてスリルが欲しい時にホラースポットに立ち寄って満喫する。要するにエンタメなんだよ。」
「要するにホラースポットは誰も立ち入らない場所に怪談や噂が脚色されたものだと?」
「そういうことだ。人が大勢いるところに幽霊が出るなんて言う人はいねえよ。いった本人だって立ち入るんだからな。」
そこまで話すと竹中はある疑問を言った。
「でも事故や事件で非業の死を遂げる人ってのはどこでもいるんだろう?街の真ん中に幽霊が出てもいいんじゃないか?」
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