[第二十四話]異世界生活の第一歩!
「不動産屋さんってどこにあるの?」
「ペリドットさんに聞いたのは冒険者協会の近くの……あそこね」
雫ちゃんが指差す方を見る。あ、なんか看板に家の記号みたいなの書いてる。文字がちゃんと読めなくても分かりやすい記号とか書いててくれたら何のお店なのか分かっていいよね。
全然読めないけど、お店の窓にいっぱい色んな物件の間取りとかの紙が貼ってある。間違いなく不動産屋さんだね、ここ。
「灯はどんな家に住みたい?」
「私はねー、まずお風呂が大きくてみんなで一緒に入れたら良いなぁって思うんだよね」
異世界に来てからずっと一緒にお風呂入ってたし、もう一緒に入る以外の選択肢ないよね。だからお風呂はちょっと大きめが良い。
「あとはバルコニーと芝生の庭かなぁ。ほら、そういうのあった方がくつろげるでしょ?」
「庭の手入れ、灯がちゃんとやるのね?」
「……やっぱり庭は無くてもいいかな」
うん、庭の手入れとかちゃんと出来る自信無いよね! バルコニーだけでいいや!
「楓ちゃんは家の希望とかある?」
「ん……日当たりの良い部屋ー?」
なるほど、猫みたいに日当たりの良い窓際でお昼寝する楓ちゃんが思い浮かぶ。猫と一緒にゴロゴロする楓ちゃん、絶対可愛い。
「雫ちゃんは?」
「そうね……希望としては、寝室は1人1部屋あるといいわね」
「えー!? 一緒に寝ないの!?」
「貴女たちと一緒に寝たら寝苦しいのよ」
うんざりしたって感じで言う雫ちゃん。ひんやりしてて抱き心地良いのに。仕方ない、夜にこっそり忍び込むか。
お店の前で色々言ってても仕方ないから、早速入って良い家探そう。条件に当てはまる物件あるかな?
「いらっしゃいませ」
「家を探してるんですけど……」
店員さんにさっき相談してた希望条件を伝える。少なくともお風呂は大きくないと許せないね! 寝室は1つでいいし!
「その条件でしたら……」
条件に合う物件のチラシをたくさん見せてくれる。間取り図だけを見てもあんまり良く分からないんだけどね……。
「内覧って出来ますか?」
雫ちゃんがそう提案する。そうか、実際に行って見てみれば良いんだ!
「可能ですよ。私どもとしましてもお客様に納得していただいた上で買っていただきたいと思いますので」
やった、お家巡り出来る! お母さんが昔「ふらっと不動産屋に行って内見とか内覧するの趣味だったの」って言ってて気になってたんだよね! 異世界の家ってどんな感じなのかな、めちゃくちゃ気になる。
「じゃあ、この物件とこの物件、それとこっちも行けますか?」
「はい、本日は他に内覧の予約もありませんので大丈夫ですよ」
雫ちゃんがいくつか選んだ物件の内覧が決まった。よし、どれもお風呂が大きそうでバルコニーがあるっぽい! 私たちは不動産屋さんのお姉さんに連れられて店を出た。どんな家か楽しみだなぁ。
* * *
最初の物件に来た。黒い屋根で丸太を積んだようなログハウスっぽいデザインのオシャレな家。わぁ、早速大きいバルコニーが!
「こちらは帝都中心部から少しばかり遠いですが、その分中心部の物件よりも夜間は静かに過ごせると思いますよ」
「お風呂! お風呂見ても良いですか!?」
「はい、ご自由にご覧ください」
まずはやっぱりお風呂を見るよねぇ! 玄関を入って真っ直ぐ奥に行って右、曲がった先にお風呂場があった。おお、木製の浴槽だ、オシャレ!
「雫ちゃん、檜風呂っぽいお風呂!」
「……この物件はナシね」
「なんで!?」
こんなに落ち着きそうな雰囲気のお風呂なのに! ゆっくり入ったら絶対に気持ちいいのに!
「木製のお風呂場って維持管理が大変なのよ。カビないようにお湯を抜いたすぐ後に掃除しないといけないの。お風呂上がりに掃除したい?」
「む……確かにそれは大変かも……」
気持ち良くお風呂入ったすぐ後に掃除して汗掻いたら意味無いね……お風呂は絶対気持ちいいけど、その後の苦労があるのか……。
仕方ないからこの物件は諦めて、私たちは次の物件に向かった。でもやっぱりちょっとくらい木のお風呂入ってみたかったなぁ。
* * *
2個目の物件。レンガ造りでいかにも洋館って感じ! こっちもオシャレだ!
「こちらは帝都中心部に比較的近いですが、分厚いレンガの壁で騒音対策も大丈夫ですね」
バルコニーと庭は無いけど結構良いかも。じゃあ早速お風呂を見させてもらおうかな!
「おお、予想通りレンガ造りのお風呂だよ! 浴槽も広いし良い感じかも!」
「へぇ、なかなかオシャレじゃない。これで床がレンガじゃなければ即決だったんだけど……」
確かに、家中の床全部レンガだ……実際今土足のままだし。我々日本人、せめて絨毯とか畳じゃなくてもいいからフローリングではあってほしいと思うよね……靴のままとかくつろげないし……靴だけに。
「ここは一旦保留にして次に行きましょうか。最後の物件は価格こそ高いですが一番オススメできる物件になっていますので」
「お願いします」
最後の物件に期待を込めて退出。不動産屋さんのオススメってくらいだし良い物件のはず! 次くらいで決まればいいなぁ。
* * *
最後の物件。帝都の中心部からちょっと離れた場所で、なんか元の世界で見たことあるような雰囲気の普通のお家が建っていた。うん、あっちの世界のお金持ちが住んでたような大きい洋風建築だ。
「こちら、異世界人のデザイナー様が設計なされた貴族向けの物件になっております。一見すると壁が薄いように思えますが、防音効果のあるクッション材を入れてあるので中に入れば静かな時間をお過ごしいただけると思います」
やっぱりあっちの世界の家だ! 高級住宅地なんかにあるお金持ちの別荘! 絶対に住心地いいよココ!
「あ、裏に広い庭とバルコニー! 芝生だよ、芝生!」
「あら、私たちが言ってた希望全部入ってるんじゃない?」
中を見れば、日当たりの良いリビングに大きな温泉宿みたいな大理石っぽいお風呂。部屋数も多くて寝室は余裕で人数分確保出来そう。凄い、理想的な家だ……!
「この物件は土地代込みで約3億ゼルと少々高くなっておりますが、帝都周辺で最もオススメできると胸を張って言えます」
「3億ゼル……闘技大会の前だったら間違いなく卒倒してるような価格だけど、今の私たちなら余裕ね」
雫ちゃんが笑う。実際、今の私たちならこの家を買っても50億ゼルは手元に残るし超余裕なんだよね。うわぁ、異世界で大富豪になっちゃったよ……!
「今日購入の手続きをしたらすぐに住めますか?」
「はい、いつでも住んでいただけるように清掃など定期的に行っておりますし、家具さえお客様で揃えていただければすぐにでも」
「決まりね。灯も楓も、ここで決めちゃって大丈夫でしょ?」
「うん、最高だよ! ね、楓ちゃん!」
「ん、ここがいい」
そうして私たち3人の異世界での拠点が決まった。こんな豪邸を即決で買えちゃうなんて夢みたいな話だけど、闘技大会で頑張った私たちの成果だよね!
不動産屋さんに戻って購入の手続きをする時に3億ゼルをポンッと出したら担当のお姉さんに目を丸くして驚かれたけど、無事に家の購入は完了した。家具とか色々と買いに行かないとだ!
雨降る丘で希望を唄う少女アリア 倉田星呑 @Seiten_Kurata
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