[第二十二話]閉幕、そして――

「す、すみませんメルクレアお姉様……!」


「謝ることではないでしょう? それに、頭を下げられてもお茶会のお菓子は無いのよ」


 闘技大会の終了後、私たちは皇女様たちに呼ばれてお城の大広間にいた。閉会式は挨拶だけで終わったし、賞金のこととか話すのかな?


「楓ちゃん、ちゃんと試合見てた?」


「ん、見てたよ」


「……本当かしら?」


 相変わらず猫を撫でてる楓ちゃん、本当に見てたのかは分からないけど普段より眠そうな顔ではない。


 出場者とその関係者で雑談してると、開会式と閉会式で司会進行をしてた第二皇女のフレイアさんがみんなの前に立つ。ちょっとフラフラしてるのが気になるけど。


「皆さん今日はぁ、お疲れ様でしたぁ!」


「……フレイア、もう飲んでるのね」


「お姉様もぉ、飲みますかぁ? エールズの美味しいビールが入ったんですよぉ!」


 酔っ払いだった。メルクレアさんが溜め息を吐いて進行を引き継ぐ。


「……改めて、出場者の方々はお疲れ様。メティアも充分満足したでしょうし、観戦チケットも完売して今回も大成功だったと言えるわね――ちょっとフレイア、邪魔よ」


 メルクレアさんがフラフラともたれ掛かるフレイアさんを手で押し退ける。完全に酔っ払いだなぁ。司会してた時は結構真面目そうに見えたのに。


「はぁ……とにかく、今から賞金を渡していくわ。貴方達の実力なら心配ないと思うけど、大金だから気を付けて持ち帰ることね」


 メルクレアさんがパンパンと手を叩くと、たくさんのメイドさんがアタッシュケースを持ってくる。ああいうアタッシュケースに入った大金ってよくドラマとかアニメとかで見るよね。


「まずはルナールね。評価は……Sだったかしら? それじゃ、40億ゼルよ」


「ありがとうございます。メルクレア様も、またチェスでも指しましょうね!」


「はいはい」


 大きなアタッシュケースを受け取るルナールさん。よ、40億って凄い! 円と同じような価値って雫ちゃんが言ってたし、何が買えるのか予想も出来ない!


「レクサスさんはA+……35億ゼルね。お孫さんに家でも建ててあげるのかしら?」


「それも良い使い道ですなぁ……孫が成人した頃に屋敷でも建ててやりますかな」


 レクサスさんがアゴのヒゲを撫でて笑う。そ、そっか、そんな大金があったらお屋敷くらい建つのか……。


「シズクはB+、25億ゼルよ。あら、手が震えているわよ?」


「あ、ありがとうございます……」


 雫ちゃんが弱々しい声でお礼を言ってアタッシュケースを受け取る。ペリドットさんの宿の支払いが2000万ゼルって言ってたけど、もうそんなの全然気にならなくなっちゃうなぁ……あ、次は私だ!


「アカリはA評価、30億ゼルよ。怪我の方は大丈夫かしら?」


「だ、大丈夫です! とりあえず固定してもらったので!」


 ギプスでガチガチの右手を見せて、無事な方の左手でアタッシュケースを受け取る。いや、本当は結構ジンジン痛いし大丈夫かと言われたら微妙だけども! まだ肩の方もちょっと違和感あるし!


「瑪瑙さんもお疲れ様。エキシビションとして依頼させてもらったけれど、うちのメティアでご満足いただけたかしら?」


「……ええ、満足しました。また機会があればよろしくお願いします」


 瑪瑙さんはあんまり感情を読み取れない無表情のまま深くお辞儀する。改めて見ても綺麗な人だなぁ。なんというか、凄く美人な外国人観光客が日本のお姫様の格好をしてるような、でも凄く自然に見えるような、不思議な感じがする。


 メルクレアさんがもう1回パンパンと手を叩くと、メイドさんが料理を運んでくる。


「闘技大会を盛り上げてくれた皆さんにお食事を用意させてもらったわ。たくさん食べて疲れを癒やしていってもらえると幸いよ」


「皆さん、今日は本当に良き試合をありがとうございました!」


 メティアさんが感謝を述べて、私たちにとって初めての立食パーティが始まった。流石に皇女様主催なだけあって見たこともないような豪華な料理がたくさん並んでる! どれから食べようかな!? ……あ。


「……雫ちゃ~ん! ご飯食べられないよぉ!!」


「……ああ、そういえば右手折れてたんだったわね――仕方ないから食べさせてあげるわよ」


「ありがとー!!!」


 雫ちゃんに食べさせてもらって、なんとか美味しいものが食べられる。しばらくはずっと雫ちゃんから離れられないなぁ……でも私としては悪くないかな。髪とか洗ってもらっちゃお!


「? 何よ?」


「ううん、なんでもない!」


 優しくフーフーして料理を冷ましてくれる雫ちゃんに、私は心の中で呟く。やっぱり雫ちゃんは大好きな親友だなぁ!



――To be continued...

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