ふたり-あの時

Tou Harui

プロローグ

彼女たちは、同じ系列のカフェでそれぞれの時間を守っていた。


沙織の店カフェ・ブルーム(cafe Bloom)は陽射しの似合う場所だった。

午後の柔らかい光が、彼女のまっすぐな笑顔に滲み入り、コーヒーの香りとともに記憶に残る。


一方、景子の店カフェ・ノッテ(Caffe Notte)は夜が似合っていた。

静かなジャズと共に、仕事帰りの体をほどくような温度で迎えてくれる。


気分で行き分ける日々。

けれど気分は、記憶と感情に侵食される。


どちらの店に立ち寄るか――

それは一日一日の選択ではなく、少しずつ心に溜まっていく選択の記録だった。


いつの間にか、沙織の笑顔に対面することが、僕の日常の一部になっていた。

でも景子が僕に向ける眼差しには、どこか儚くも憂いがあった。


そして二人が友人であると知ったとき、時が少しだけ止まったように感じた。


行動できぬまま、三人の時間は並走し、小さな出来事が積み重なっていった。




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