北森小学校2013年に閉校
斎藤
プロローグ
堺雄之助は、喫茶店の隅で冷めきったコーヒーを見つめていた。
デビューから三年、これまでに出した短編集は三冊。
どれもオカルトや怪談を題材にした作品だったが、いずれも重版には至らず、書店の棚から消えるのも早かった。
編集者からは「そろそろ次の企画を」と催促されている。
だが、雄之助の頭の中には、どこかで聞いた話の焼き直しのようなアイデアしか浮かんでこない。
――もっと、現実の底に沈んでいる“得体の知れないもの”を掘り当てなければ。
そんな時、スマートフォンに一通のメッセージが届いた。送り主は高校時代からの親友、立花蓮だった。
『面白いネタがある。北海道の山奥にある廃校、知ってるか?』
蓮は雄之助とは対照的に、大学を出てからすぐ大手のテレビ局に就職し、
今では社会部の記者として取材を飛び回っている。
メッセージにはリンクが貼られていた。小さな地方紙の過去記事。
見出しには「常葉町立北森小学校、児童数ゼロで廃校へ」とある。
児童数の推移が簡単にまとめられていた。だが、雄之助はすぐに違和感を覚えた。
2010年頃までは毎年十数人の児童がいたのに、ある年を境に急激に減っている。
しかも廃校が決まる直前の数年間、児童数の欄が空欄になっているのだ。
雄之助は眉をひそめ、蓮に返信した。
「少子化で子どもが減っただけじゃないのか?」
すぐに既読がつき、短い返事が返ってくる。
『それだけなら、俺がわざわざ教えるかよ』
雄之助の胸が高鳴った。
売れない現実も、行き詰まった頭の中も、すべて振り切るように。
――ここに、次の小説の“種”が眠っているのかもしれない。
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