第7話 僕の呼吸 前編(side 諒平)

 最近、周が変だ。

 

 一昨日は特に様子がおかしかった。落ち着かない、何かを言おうとしては、何やら息苦しそうに喉を詰まらせる。


 これはきっと。結婚間近と思われた、元カノみくりへの未練から壊れ始めたか、と俺は思った。


 だが、その元カノみくりは一ヶ月前から真樹子と付き合い始めた。

 みくりが、ずっと真樹子を好きだったと知った時は「じゃあ、なんで周と……」と怒鳴りそうになったが、大事な同士真樹子が好いた女。そして、念願叶って想いが通じた真樹子を思えば、その言葉は飲み込んで祝福をした。


 自宅アパート前。

 俺はふと、空を見上げた。

 天井には、夜には眩しいくらいの満月が、俺を興味津々で見下ろしている。

 思わず月を睨み付ければ、スマホが振動した。画面には、真樹子の名が。


『もしもし、諒平?』

「おう、どうした?」

『あのさ、周のことで、ちょっと話があるんだけど』


 俺の予感的中か? と身構えた。が、真樹子から放たれた言葉は、俺の予想の斜め上を行き、ただ唖然とした。


『周の奴、どうやら職場の先輩に告られたみたい。写真見せて貰ったらさ、すごい諒平に似てるんだよね。顔も体型も』


 俺に似てる? 顔だけじゃなく、体型も? それって、本当に女か?


「……それは女、なのか?」

『え? ああ、違う。男の先輩だよ。それ、受けようかなって言ってた』


 その言葉に愕然とした俺は、なんと言って通話を切ったのか最早もはや覚えてはいない。

 気付けば周に電話をしていた。やけに長く感じるコール音の後、耳に馴染んだ声が響く。俺は考えるより先に言葉が溢れた。


「周、今から会おう」

『え?』

「今から、そっち行くから。寝ないで待ってろ」

『え、ちょっと、諒平?!』


 俺は電話を切り、走り出した。


 周。俺が側に居てやる。ずっと、お前の隣に俺が居るから。他の男なんて、選ぶなよ。




 

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