第7話 対峙
漆黒の闇が支配するゴブリンの巣窟。
トレミィは迫り来る醜悪なゴブリンたちを華麗にかわし、盗品が雑然と積み上げられた薄暗い部屋へと滑り込んだ。
普段の余裕綽々とした笑みは消え失せ、代わりに獲物を狙う鷹のような鋭い眼差しが、部屋の隅々を――否、そこに隠された「何か」を求めて光る。
トレミィ:「さて、役に立ちそうなものがあればいいけど。」
トレミィはそっと呟くと、ひとつ深呼吸して瞼を閉じた。五感を研ぎ澄ませ、意識を集中させる。
すると、床に転がる山のような袋の一つから、微かに、だが確かに、高貴な魔力の波動が感じられた。
トレミィ:「えっ、まさか。」
トレミィはその袋を手に取り、中身を豪快にぶちまけた。
ガラクタの山の中から、一際まばゆい輝きを放つアミュレットが、コロリと転がり出る。
トレミィ:「……なんでこれがこんなところに」
トレミィは怪訝そうにそれを拾い上げた。
それは、トレミィが依頼を受けて探していたアミュレットであった。
本来ならば厳重に保管されているべき、あまりにも貴重な品。
それが、まるでそこらの石ころのように雑に扱われている状況に、トレミィは言いようのない違和感を覚えた。
──その時。
魔術師:「おやおや……迷い込んだのは、可愛らしい一匹のねずみさんかな?」
低い、陰気に響く声が、部屋の空気を一変させた。
トレミィが振り返ると、入り口には黒いローブを纏った怪しげな魔術師が立っていた。
その隣では、腕組みをしたずんぐり体型のゴブリン・ボスが、下卑た笑みを浮かべている。
魔術師:「それとも、何かお探しでしたか?」
魔術師が口元を歪ませ、いかにもとらえどころのない笑みを浮かべる。
トレミィ:「さあね。どっちだか、当ててみなよ」
トレミィは挑発的な笑みを浮かべ、鋭い視線を返す。
その右手には、まだ見せつけるには惜しいアミュレットが、しっかりと握りしめられていた。
魔術師:「生意気な小娘ですね。まあ、ここで何をしていようが──貴方はおしまいですけどね」
魔術師の声には、冷酷な確信が滲んでいた。まるで、既に全てを見通しているかのように。
だが、トレミィは一歩も引かない。
トレミィ:「おしまいなのは、あんたのほうさ」
そう言って、彼女は手にしていたアミュレットを、月明かりに煌めかせながら高く掲げた。
魔術師:「アミュレット……?それがどうしました?」
魔術師は、まるで価値のないガラクタを見るかのように、興味なさげに眉をひそめた。
その態度に、ゴブリン・ボスの醜悪な顔が不快げに歪む。
ゴブリン・ボス:「…………」
無言の圧を放つゴブリン・ボスに、魔術師はフンと鼻を鳴らす。
トレミィ:「やっぱりね。このアミュレットの価値も分からなかったのか。あんぽんたんだね、本当に」
トレミィは、呆れたようにため息をつくと、手のひらの上で輝くアミュレットをひらひらと揺らした。
その仕草は、まるで魔術師を嘲笑っているかのようだ。
魔術師:「ならば、その価値とやら見せてもらおうか。ボス」
馬鹿にされた魔術師は、ぴくりと頬を引きつらせ、ゴブリン・ボスに視線で指示をだす。
ゴブリン・ボス:「ゴブっ」
ゴブリン・ボスは、にやりと口元を歪めると、巨大な腕を振り上げ、トレミィ目掛けて突進する。地を揺らすほどの足音と、殺気立った雄叫びが空間に響き渡った。
トレミィ:「ぐっ……!」
トレミィは身構えたものの、ゴブリン・ボスの予想外の素早さに、焦りの表情を浮かべた。後退しようと一歩踏み出すが、それよりも早く、ゴブリン・ボスの巨体が目前に迫る。
ズシンッ!
ゴブリン・ボスの巨大な拳が、唸りを上げて振り下ろされた。衝撃で、二人の周囲に土煙が舞い上がり、視界は一瞬で閉ざされる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます