日常の風景が、たった一行の台詞で「異界」へと変貌する。この短編は、そんな静かな恐怖と美しさが同居する極上のダークファンタジーです。
舞台は、どこにでもある平凡な住宅街。そこで出会ったのは、あまりにも浮世離れした「白い貴婦人」でした。金髪に白いケープ、そして古めかしい乳母車。著者の描く色彩のコントラストは鮮烈で、読者はまずその耽美な世界観に引き込まれます。
しかし、目を奪われているうちに、物語は少しずつ、確実に「違和感」という毒を回し始めます。
ベビーカーではなく、歪なささくれの目立つ乳母車と言うのが不気味さに拍車をかけるのになぜか異質なのに美しい。
日除けの奥から聞こえる、重なり合った赤子の泣き声。そして、母親が我が子に向ける「じきに羽化するから」という慈愛に満ちた、けれど背筋の凍る一言。
この作品の真髄は、ラスト数行に凝縮された衝撃にあります。籠の中に横たわる「繭」と、その中に閉じ込められた「何か」。
読み終えた瞬間、読者は「お母さん」という言葉の真意を突きつけられ、日常の裏側に潜む深淵を覗き見ることになるでしょう。
美しくも禍々しい。この数分間で完結する物語は、あなたの「母親」や「誕生」に対する概念を、音もなく塗り替えてしまうかもしれません。
奇妙で美しい悪夢を覗いてみたい方に、ぜひ一読をお勧めします。
長い絹の様な美しい金髪。真っ白な
ケープコートを着込み、白絹の薄い手袋を
嵌め、白いレースのスカートを履いた女。
レースのスカートには桑の葉模様が複雑に
散りばめているのだろう。
愛おしそうに、乳母車の中の赤ん坊に
声をかけている。
外国人の母子が散歩に出て来たのだろうか
目が離せない。いや、寧ろ
否が応でも惹き付けられてしまう。
つい、顔を覗き見て。
片目に眼帯をした、そして愛おしそうに
金色の片目を細めながら、その女は
乳母車の中の もの に声を掛けている。
さては
伽藍の御堂に居たモノの末裔か。
されば、畏ろしくも高貴なモノには
違いないのだ。