西京事変

徒恋

Ep1.1 target

――ブーブー。ブーブー。

午前三時。死んだように静まり返った部屋で、警告音だけが不気味に鳴り続けていた。


私は手探りでスマホを掴み、画面を見た。

【JA六反田駅付近にて推定PL600の変異種確認】


「……またか」

低く呟き、重い体を引きずるように玄関を出る。


夜気はひどく冷たく、街灯の下に誰かの影が立っていた。

「あ、先輩! お疲れ様です! 報告、もう見ました?」


新人の西崎だった。声は明るいが、わずかに震えている。

「あぁ、西崎か。六反田のPL600の件だろう」

「そうです! さすが、情報が早いですね!」

「……俺もさっき聞いただけだ。お前も六反田に行くのか?」

「はい……。普段はPL200止まりなので、正直……怖いです」


作り笑いの奥で、彼の瞳は怯えていた。


PL――パワーレベル。個体の戦闘能力を数値化したものだ。

確認されている最大値は7800。

その基準で見れば、PL600は取るに足らない。

だが、拳銃で人間が正面から渡り合えるかは、五分と五分。


西崎の限界はPL200。人間二人がかりで倒せる相手しか知らない新人には、PL600は十分すぎるほどの怪物だった。


「先輩は……初めてPL600と戦ったとき、怖くなかったんですか?」

「いや。俺の初戦は、PL2500だった」

「……よく、生きてましたね」

「運が良かっただけだ。――着いたぞ。六反田だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る