第4話 基地制圧戦
「おい坊主 起きろよ〜」
ぼんやり聞こえた声で起こされた。テントは狭いし寒いし慣れない、あまりよく寝れなかった。 動き回る人の影がテント越しによく見える。あたりはまだ暗く日が出て間もない様だ。
さっさと準備しないとな。
「起きたか、装備はそれだ」
アルヴァラドだ。茶色いトレンチコートに身を包み腰にリボルバーを刺している。
「よし」
もらったダウンジャケットと手袋、身につけた。ダウンジャケットの背中側にいくつか穴が空いてるのが気になるが、これは誰かのものだったのか?
とにかく、あとは武器があれば完璧だ。
「テッド、すまんがお前はこれだ」
バートンが申し訳なさそうに鉄パイプを渡してきやがった。杖ぐらいにしかならないサイズだがこんなんで敵を倒せるか心配になってきた
「全員装備確認、問題ないな」
軍隊さながらの手順で進めている。銃、斧、剣?
棍棒、当たり前だが統一感の全くない装備を各自手にしている。昨日は分からなかったが全員で30人近くいる。俺もそのうちの1人だ。みんなを見てようやくその実感が湧いてきた。
「行くぞ 出発だ」
アルヴァラドの号令と共に全体が動き始めた。アルヴァラドを先頭に列をなして森を進んでいく。
村にいた頃は薪を取りに来るぐらいだったから森の奥を通るのは初めてだ。
「よお新入り、名前は?」
朝起こしてくれた声だ。朝飯代わりのパンを歩きながらかじっていたら話しかけてきた。
「俺はテッド あなたは」
「おれはトナーだ よろしくな」
歳は25くらいかな。若々しい気さくな人だ。
「そのパン味ないだろ これ塗るとうまいぜ」
ジャムが詰まった小瓶をくれた。言われた通り塗って食べてみれば味気なかったパンがずいぶん良くなった。あとはあったかいスープがあれば完璧だ。しかしスキットルに入っているのはただの水
「見えた、C班は行け。A班は準備して待機。
テッドはついてこい、偵察だ」
トナーと話しながら歩いていたらいつのまにか着いていた。森と森の間にある小さな雪原の中にポツンといくつかの建物が立っている。
「よく覚えておけ、作戦を説明する」
遮蔽から上半身を乗り出し渡された双眼鏡で見渡した。4つの建物とそれをフェンスとゲートが囲んでいる。
「屋根が青い建物が見えるな、あそこが兵舎だ。
あの基地の人数は20人程度、そろそろ巡回のトラックが出る時間だ」
アルヴァラドは懐中時計を取り出し時間を確かめた。そうしていると本当にトラックが2台、基地から出てきた。
「予想通りだ。トラックはC班がやる。
お前はA班だ。A班は正面ゲートから攻撃、注意を引け。その間にB班が裏から潜入してあの小屋の通信設備を壊す。わかったな」
作戦は理解したが、やっぱり鉄パイプでそこまでできるか心配だ。それにまだ残り二つの建物が気になる。
「残りの建物はなんなんだ?」
「あっちはトラックの車庫、その隣は拘置所だ」
拘置所、その名前を聞いてすぐに昨日の夜の話を思い出した。
まだ親父があの留置所にいるんじゃないかって話
、助けれるんじゃないかって希望が見えてきた
「くれぐれも勝手に作戦を放り出すような真似はするなよ」
彼にはお見通しだったようだ。釘を刺されたが、もとよりちゃんと作戦に従うつもりだ。
待っててくれよ親父、監視隊を制圧したらすぐ助け出してやる。
「それぞれ基地に接近する。A班の発砲を合図に動き出す。各班行動開始!」
隊と合流し行動開始。A班16人、B班10人でそれぞれがバレないようひっそりと基地に近づき始めた。我々は雪原の起伏に沿って身を屈めて接近する。
基地との距離が短くなるごとに、確実に戦いが自分の元に近づいているのをひしひしと感じる。
「止まれ」
A班隊長バートンの小さな声が聞こえる。正面ゲートに2人の見張りが立っているのが見えた。
やつらはのんきに基地の方を向いておしゃべりしている。
「あークソ、なんだってこんなとこに配属されちまったかな」
「次の交代は1ヶ月後だ。がんばろうぜ」
見張りは仕事を忘れているようで全く周りを気にしていない様子だ。
「ダグは建物のあいつを狙え。レイストン、ダンテは火炎瓶用意。あとのやつは合図と同時に俺に続け」
全員に緊張が張り詰める。先頭2人が火炎瓶に火をつけた
「撃て!」
合図と同時に1発の銃声が響きわたり、火炎瓶は空を舞いゲートの端に立つ見張り達の足元で割れ火が広がった。
「ぎゃあぁぁ!あづっ」
「なっあ!あっ!なんだっ!」
焼けて苦しむ見張りを横目にゲートを超え基地内の広場に侵入した。
「なんだ!何事だっ!」
騒ぐ1人を迅速にバートンのライフルが撃ち抜いた。しかしぞろぞろと建物から監視隊員が出てくる。
「なんだお前たちは!」
「敵襲だ!敵襲! 戦闘用意!」
すぐさま広場は戦場に変わった。あちこちで銃声と怒号が響いて、全体を理解するなんてできなかった。だが俺だって何かしなくちゃ、この状況でも俺にできることがあるはずだ。
「クソッ!クソッ!」
慌ててホルスターから銃を引き抜いている監視隊員を見つけた。
「させるかぁ!」
すかさず力をめいっぱい込めて鉄パイプを腕に振り下ろす。
「ダッ!やられてたまるかぁ!」
拳銃は叩き落とせたがそのまま殴りかかってきた。
「クソ!おらっ!」
胴体と頭、2発入れてやってやっと動かなくなった。俺からしたら素手ででも大人は十分脅威だ。
「はぁ... はぁ... 」
振り返るとまだ何人か監視隊員が戦ってるがこちらが優勢だ。
「くたばれ侵入者どもが!」
トナーが敵2人に挟み討ちにされている。
背後のやつを抑えないとトナーが危ない!
「やらせねぇぞ!」
トナーの背後に迫る敵を思いっきり殴りつけた。
もう1発殴って確実に止めないければ!
「うぁっ!」
これだけやればもう動けないだろう。
しかしこれだけバカスカ殴ってるとパイプを握る手が痛い。
「テッド! 助けてくれたのか」
前の敵を倒したトナーが振り向いて少し驚いたよな声で言った。
なんにせよ助けれてよかった。
出てきた監視隊員は全員片付いた。よく見ればトナーの服に返り血がどっとついている。
これで制圧できたのか?
「ぐあぁっ!」
呼吸を整える暇もなく、また何かが起こった。
乾いた銃声とともに誰かの叫ぶ声が聞こえた。
ハッとして銃声の方に目を向けると兵舎の2階から拳銃を手にした敵がいた。
「テメェら何してるか分かってんのかよ!」
そうぶちまけるように叫びながら何発も撃ってきた。
「撃たれた!全員遮蔽に身を隠せ!」
バートンは撃たれた仲間を遮蔽に引きずりこみ指示を出した。
「基地を襲撃なんて!
すぐに本部に伝えてやる!テメェら皆殺しだ」
2階の窓から無造作に放たれた弾丸がそこら中に飛び回る。
「バートン!どうすれば」
「あの銃は6発装填だ 今ので5発、反撃のチャンスはそこだ
レイストン、あそこに投げ込め!」
あの白髪の男がレイストンか?
火炎瓶にライターで火をつけ、投擲の体勢を整えた。
「うわっ!」
俺が身を隠してる遮蔽に弾があたり思わず声が出た。おっかない。
だがこれであいつは6発全ての弾丸を打ち尽くしたはずだ。
「今だ!」
レイストンがバートンの合図を聞き、やつのいる兵舎の2階窓へ火炎瓶を投げ込んだ。
その火炎瓶は見事に敵のいる窓へ投げ込まれ外からでも見えるほどの火を撒き散らした。
「うわぁーー! 熱!熱い!」
2階の窓から火だるまになった監視隊員が這い出て落ちてきた。雪の上でのたうちまわり火を消すことはできたがもう虫の息だ。
「建物の中を見回れ!制圧まであと少しだ!」
この声、振り向くとアルヴァラドが隊をまとめ上げていた。通信設備は壊せたらしい。
早く建物の中も制圧しないとだ。
俺は兵舎に駆け探索した。
最初に入った部屋は食堂、次はずらりと二段ベットが並べられた部屋、その次は近くの村から巻き上げたであろう作物 金品 がぎっしり詰まった倉庫。あとまだ見てないのは目の前の部屋、
扉を蹴り飛ばし突入するがこの部屋には誰も居ない、ただ机と積まれた紙束があった。事務室か何かだろう。
「まさか机の下にいないよな」
机の下を覗き込んだが誰も隠れてはいなかった
さっさと次へ行こう。そう顔を上げたとき、机の上にあった報告書が目に入った。
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