第2話 響く銃声
「アルヴァラド、この子は一体どうしたの」
かすかに何か優しい声が聞こえてきた。
指先が少しずつ暖かくなっていくのを感じるが、瞼はまだ凍りついてて開かない。
「昨日の夜、森で倒れているところを見つけた。大丈夫そうか?」
さっきとは違う声だ。きっと男の声、一体だれだ?瞼がやっと開けそうになってきた。
「うぐっ」
「ここは?」
やっと目が開いて見えたのはテントの中だろうか。そこに俺は寝かされていた。
「あら、もう動けるのかしら」
俺の横には知らない女性がいた。最初に聞こえた声はこの人のだろう。
「起きたか、そのまま休んでいていいぞ」
テントの外から男が覗き込んで言った。どうやら俺はこの男に助けられたらしい。
「えっと、助けてくれたのはあなたでしょうか」
「そうだ。森で雪に埋もれそうになっていたところを見つけた」
「助けていただいてありがとうございます。それで、あの、ここはどこですか」
なぜテントの中にいるかは分かったがまだまだ気になることは沢山ある。
「そうだな、その前に腹が減っているだろう。
セレン、何か食べさせてやってくれ」
隣にいる女はセレンと言うらしい。男に頼まれたセレンはカゴから一切れのパンと水筒を差し出した。
「食べれるかしら。そういえば、あなた名前は?」
「俺はテッド ソロヴォイです。あの、セレンさん ここは一体どこですか」
「セレンでいいわよ。それで、この場所についてだけど、まだ話せないわ、まあテントの外に出てみればいいんじゃないかしら」
なぜかここがどこなのか教えてくれない。仕方がないので俺はしばらく食べてから外へ出た。外は森に囲まれた広場のようで、テントや小屋、焚き火がいくつか見える。しかし木々に遮られてここがどこなのか全くわからない。
「もう動けるのか 俺はアルヴァラド 君は?
さっきの男が薪の束を抱えていた。機械的な話し方で何だか気になる。
「テッド ソロヴァイです」
恐る恐る言った。
「歳はいくつだ」
「17です」
受け答えは淡々としている。アルヴァラドはまた何か言おうとしたが我慢できない。
「あの!助けていただいたのは感謝します。
でも...村が心配で、早く戻りたいんです。ここはどこですか」
アルヴァラドの言おうとしたことを遮り言った。
虫のいい話だとは分かっていたが村のことが、母さんのことが心配だ。
「君の村で何かあったのか?それとも君に何か起きたのか」
この男には大体のことはお見通しなんだろう。そう思えるような物言いだ。
俺は仕方なく村の出来事を話した。アルヴァラドは少し考えてから口を開いた。
「やはりな 今村に向かうのはやめておけ。昨日から監視隊の巡回が多くなっている。おそらく君をさがしているんだろう。」
アルヴァラドの忠告は正しい。でも俺はこれからどうすればいいんだろう。今自分にできることが全く思い当たらない。そう考え込んでいたときだった。
「アルヴァラド!監視隊がこっちに向かってきてるぞ!」
小太りで銃を持っている男が出てきてアルヴァラドに伝えた。
「わかった、全員武器を隠せ。旅の集団を偽れ」
小太りの男の言い方から察するに大変な状況なのだろうか。しかしアルヴァラドは冷静に指示を下した。
「それからテッド、さっきのテントに戻って隠れていろ」
監視隊から匿ってくれるのだろうか。申し訳ない。
テントの中に飛び込み毛布を被りじっと待つ。離れたところから雪を踏み締める足音が聞こえてきた。
「貴様ら!ここで何をしている!」
監視隊の声だろう。やはりここは怪しまれているんだろうか。足音が近づいてくる。俺は今、布団の中で丸くなって震えることしかできない。本当に情けない。
「我々は旅の集団だ。ここでキャンプをしている」
このまま過ぎ去ってくれ、頼む。
「昨晩、この森に罪人のガキが逃げ込んだ。貴様ら、何か知らないのか?逃げたガキが潜伏してないか調査する!」
監視隊は強引に捜索を始めた。このテントを見られたら終わりだ。足音がそこらじゅうからする。一つ一つ辺りを見て回っているようだ。
「ここにはないだろうな!」
監視隊らしき声がした。薪が大量に転がり落ち、崩れ去っていったのでであろう音が響く。
「次は...ここか!」
監視隊の声はだんだん近づいている。とうとうこのテントの前まで迫ってきた。
「ここはまだだったな 」
男はテントの入り口を引きちぎる勢いで開いた。
心臓の脈拍が早くなっていくのが分かる。とにかく毛布にうずくまり、震えを抑えてじっとするしかなかった。
バレたらお終いだ。
「おい、何だそのガキ?」
「この子は..私の息子です。すみません、最近風邪で寝込んでいるんです」
セレンさん!どうか、どうかこれで過ぎ去ってくれ。
「茶髪の...17程度のガキ 昨日見たやつと同じじゃねぇか!顔見せろ!」
監視隊の男が確認しようと強引に入ってきた。手が俺に近づいてくる。セレンさんが割って入ろうとするも払いのけられた。
「早く見せっ...」
「おい!こっちに銃があるぞ!」
また新たな声が聞こえてきた。
そういえばアルヴァラドはさっき、武器を隠すように指示を出していた。もしやあの声は武器を見つけた監視隊員の声だったのか?
「どういうこ...」
そのとき、乾いた銃声がパンと鳴り響いた。振り向くと監視隊の男は頭を撃ち抜かれ死んでいた。一体どういうことだ。
「監視隊を殺せ!」
この場所全体に響き渡る声でアルヴァラドは叫んだ。その叫び声の直後、次々と銃声と悲鳴が聞こえてくる。一体何が起きているのか理解が追いつかないが十数秒すると広場は静まり返った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます