第11話 ヤンキー

 暑い夏が過ぎて急激に寒くなってきた。天気予報なんかでは寒暖差が十度以上なんて普通に言っていたが最近の気候はどこかおかしい。そんな寒さを感じながら今日も学校へと向かう。時折考えることがあるが何でこんなにも同じようなことを毎日毎日繰り返しているのだろうか。踊れたいやき君もビックリの嫌になっちゃう具合だが学校に行かずに取れる選択肢に自分の人生を賭ける度胸もないので今日もまた校門をくぐる。

 私の通っている学校はものすごく普通の所だ。そもそも最近見ることもないがヤンキー、いわゆる不良生徒など三学年探してもいるかどうかという具合だ。しかしこんな学校の中でも非行に走る道はどこにでも転がっているものでトイレからタバコの吸い殻が見つかったらしい。不良のすることと考えると大したことのないように感じるが一般的な感覚からすると未成年がタバコを吸っていたというのは意外と衝撃的なことに感じる。この件のためなのかどうかは分からないが今日の放課後、全校集会があり、そこでタバコの吸い殻について心当たりのあるものは職員室に来るようにと連絡があった。私は全校集会の途中、これがもし一条君のしたことだったりしたらと考え気が気ではなかったがそれと同時に悪いところがあるのも少しカッコいいなんて感じてしまう愚かな妄想をしていた。こんな自分の頭の中の喋りに一生懸命で全校集会から教室への通路を一人ぼーっと帰っていると後ろからひかりちゃんに声をかけられた。

『よっ、またいつもみたいにぼーっとしてる。そんなんで階段登ってるとつまずくよ』

『あぁ、ひかりちゃん、ごめんごめん。一人でいると頭の中で自分の独り言が止まらなくなるの中々直らなくて。ところでさぁ、さっき全校集会で喫煙の話が出てびっくりしなかった?こんな場所にもそんなことする人いるんだって』

『うん、ビックリした。でも私は、ああいうことするのはいけないと思うな。本人の体にも悪いし、見つからない気はするけど犯人が誰かわかっちゃったら退学とかもあり得るかもしれないし』

真面目だなと思いながらもその真面目さに好意を抱きつつ横目でひかりちゃんの方を見る。

『まぁそうだよね。タバコの存在は知ってるし、見たこともあるけど吸った誰かが同級生かもしれないと考えると実感が湧かない感じがする。呼びかけはあったけど出てこないだろうなー。誰なんだろう。まさか!ひかりちゃんじゃないよね』

『そんなわけないでしょ。でも呼びかけてたあの先生さぁ、自分は放課後学校の外の喫煙スペースでめちゃくちゃタバコ吸ってるよね。そのせいかわからないけど不健康そうな見た目してるし』

ひかりちゃんの言う通り、全校集会で話していた先生はめちゃくちゃタバコを吸っている。なんなら歯も黄ばんでいる。

『吸った生徒が悪いんだけど誰が注意しようとしてんだって感じは分かるかな。それに...』

と言いかけたところでその先生の姿が見えたので咄嗟に口をつぐむ。各々の教室も近づいてきたのでひかりちゃんとは別れた。

 その日の帰り、なんとなく職員室の前を通って学校を出ようと思って昇降口へ向かっていた。職員室の前に差し掛かると少しドアが空いていて隙間から進路相談用の個室が見えた。中には生徒二人と先生が一人何を喋っているのかは聞こえないが先生の方はあのタバコの人だった。恐らく吸い殻の話だろうとは思いながら気になりつつも首を突っ込むことはできないので何事もなく自転車に乗って帰った。関係ないのでどうでもいいことではあるが帰宅途中ずっと生徒を叱っている黄色い歯の面影が頭から消えなかった。

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