第6話 異文化交流

 突然だが私今泉は英語が大の苦手である。英語だけではなくどの教科も須く苦手なわけではあるが特に英語が出来ない。自己分析を兼ねて原因を考えてみたりしたこともあるが全く分からない。小さい頃は英会話に通い授業の始めには得意げにI'mfineなんて言っていたのだがなんか訳がわからんうちに出来なくなっていた。

 いきなりなぜこんなことを考えているかというと私の学校に留学生が来たからである。留学生といっても交換留学の形で来ているので二、三か月もすれば母国に帰ってしまう。名前は全校集会で紹介されていたが体育座りをしながら地面にノの字を書いていたら聞き逃してしまった。そんな彼女だが校内を歩いていると結構目にすることがある。物珍しいこともあってか周りにはいつも人がいるのだがそんなところにも私の一条君は現れる。流暢な英語で世間話から国同士の違いなどスムーズに会話をしている。そんな一条君の言葉を耳に焼き付けようとわかる範囲の単語を拾って何となく話を理解しようと努めているが八割何をいっているのかわからない。まあ、かっこいいからヨシと思っているといつの間にか二人ともどこかに行ってしまった。

 留学生が来てから早くも二か月が過ぎていた。相変わらず接点という接点はないが何となく視界の端には捉えていた。個人的には聴いてみたいこともあったが言語の壁が邪魔をしてどうしても話しかけようとは思えなかった。そもそも日本人同士でもうまく話せないのに海外の人とコミュニケーションが取れるはずがないと自分に言い訳をしていると何処からか彼女のことを話している声が聞こえてきた。

『なんかさあ、来てすぐの時はチヤホヤされてたけどある程度慣れてくるとあんまり話しかけられなくなるもんだね。』

『まあ、今思うと来た時からイメージしてた外見とは少し違ったし金髪のお人形さんみたいな想像してたからガッカリした人も多かったんじゃないの』

勝手なことを言っているなと思いつつ自分もイメージを作り上げていた部分があったので人のことは言えないのかもしれない。わざと聞きに来たわけではないがこれ以上そんな話を聞きたくなかったので急いでその場を離れた。

 さらに一か月が過ぎて彼女は母国に帰ることとなった。全校集会での挨拶とは別に個別で送別会が開かれて私もその場に参加した。会が始まり比較的仲の良かった生徒が少し涙を浮かべながら言葉を述べて拍手が起こってそんな感じでどんどん進んでいき最後の質問の場面になった。先生がもう無いかもしれないからと質問を促すが誰も手を上げない。人も多いし手を上げにくい雰囲気もありそんなものかなと思ったが急に手を上げたくなってきた。今までこの方入学から一度も手など挙げたことはないが何故か衝動が抑えられなかった。手を挙げると全員の視線が一身に自分に注がれる。その時点でかなり後悔したが立ち上がりこう質問した。

『学校は楽しかったですか』

最後なのに漠然としつつ誰でも思いつくような質問、彼女もいきなり今まで喋ったこともない人間から聞かれて困っただろうと思う。それでも彼女は自然な笑顔で『はい』とだけ言ってその場を締め括った。終わった後、何で急にあんなことしたんだろうと恥ずかしさが込み上げてきてひとりクネクネしていると後ろから声をかけられた。振り向くと彼女だった。突然のことに呆気に取られていると一言、『ありがとう』とだけ言って走り去って行った。結局、真意はわからなかったけど何だか質問をすることの良さを知れる出来事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る