反乱分子

Kei

反乱分子


気が付いたら、裸で椅子に座らされていた。

手首と足首、それぞれベルトできつく固定されている。


辺りを見回す。

四方のいずれにも窓のない暗い部屋。天井で裸電球がひとつ、点滅している。


壁際に金属製のテーブルが置かれている。その上で何かがキラキラと光っている。


目を凝らしてよく見る。


メス ナイフ 鋸 ドリル ハンマー その他、何やら尖った細い道具


拷問器具だ…


思い出した 奴らに捕まったんだ。

会合の帰り、停めてあったボックスカーの横を通った時、側にいた男に声をかけられた。エンジンの調子が悪いから見てくれないか? と…

そして押し込められた。


ああそうだ。車に病院のロゴが貼ってあって…

クソッ 油断した 奴らの常套手段じゃないか!



ギィィ…



扉が軋みながら開いた。

白衣にマスクをした人間がふたり入ってきた。


ひとりが俺の前に立ち、もうひとりはテーブルの前に立った。

俺は目の前にいる奴の顔を睨んだ。ここで弱さを― 恐怖 を、見せてはならない。



チャキ カチャ



例の器具を弄る音が聞こえてくる。意思に反して冷や汗が噴き出してきた。

拷問のことは同志から聞いている。

想像を絶する痛み… 俺はどこまで耐えられるだろうか?

しかし、死んでも口を割るわけにはいかない。援護ルートが構築されるまでは…



「こんな手荒なマネ、したくはなかったんですがね」


目の前の奴が口を開いた。男だ。


? この声、どこかで…


「大人しく従ってくれていれば、こんなことにはならなかったんですよ? それはあなたもわかっているでしょう」


男は両手を腰の後ろで組んで、俺を見下ろしている。



「残念です。非常に」


言葉とは裏腹に、その声には楽しそうな響きが含まれていた。

獲物を目の前にした肉食獣のような残忍さだ。


間違いなく、こいつは俺の知っている奴だ。しかし思い出せない。



「裏切り者め…恥を知れ」


俺はカマをかけてみた。何でもいいからヒントが欲しかった。

状況が分かれば交渉に持ち込めるかもしれない。そんな僅かな希望にかけて…



「裏切り者とは心外ですね。むしろ、それはあなたの方では? 私との約束を反故にしたではありませんか。それも何度も、ね」


かかった! しかし…裏切り者は俺だと? どういうことだ?


…もしかして、二重スパイがバレたのか? 

 …いや、あり得ない。

  それを知っているのは長官だけ…



まさか!?



「さて、口を開いてもらいましょうか。Keiさん」


「や、やめろ!!」


「あのねぇ。何か月放置するつもりなんですか?虫歯」


「そうですよ。20回も予約すっぽかして。はい先生、ミラーとスケーラーです」


「ありがと… こうでもしないと治療できませんからね。観念してもらいますよ」


「(歯医者!?なんで裸に!?)せ、せめて麻酔をお願いしますっ もごごごご…」

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反乱分子 Kei @Keitlyn

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