キャラメル☆キッス

如月 聖響

第1話 ☆ビターショコラ☆

『ごめん。』

 何が?スマホの画面を見ながら、そう思った。

 少し時間が経ってから、たった3文字の別れの言葉なんだと気付いた。

「サイテー!たった3文字でって…。」

 ついさっき別れた彼とは、高校の時から約3年くらい、付き合っていた。それをたった3文字で終わらせた男に、腹が立っていた。

 最近、すれ違いが多くて別れるのは時間の問題だって、自分でもわかっていたけれど…まさか、たった3文字で別れを告げられるとは、思っていなかった。

 だからなのか、余計に腹が立った。

「ムカつく…。」

 そう呟いて、スマホをクッションの上に放り投げた。

 布団に潜り込んで、不貞寝を決め込む事にした。

 笹原 秋穂(ささはら あきほ)19歳。愁院大学(しゅういんだいがく)1回生。


…翌日…。

 バイト先のスタッフルームに入った瞬間、幼馴染の倖歌(さちか)に抱きついた。

「おっ、おはよ…秋穂。どしたぁ〜?何かあったのかなぁ〜?」

 のんびりとした口調で倖歌が秋穂の背中を撫でながら聞いてくる。

「…大典にフラれた。しかもメールで、たった3文字で…ごめん。って…。」

「えぇ〜。」

「確かに、別れるにしても時間の問題みたいなかんじだったけどさ…。メールでってどうなの?って感じで腹立ってきて…。」

 秋穂は、弾丸のように一気に昨日、起きた出来事を倖歌に身振り手振りを加えながら伝えた。

「まぁ、わからんでもないけどさ…。とりあえず、お仕事モードに切り替えようか?さっきから店長がこっち睨んでるよ…。」

 のほほんと言う倖歌に、怒りが半減?した秋穂は「は〜い。」と、気のない返事をして仕事の準備をする…。


 …バイト帰り…。

 ふと秋穂が口にした…。

「明日、ゼミ行きたくないな…。」

「何を言うのかと思ったら…。ゼミは、言っておいた方がいいよ。単位の事もあるんだし…。」

「…それは、そうなんだけど…。」

「どうして行きたくないの?」

 直接、目を見て言われると…何故か考えていた言い訳とかが真っ白になって、本音がポロリと零れ落ちた。

「…大典と会いたくないんだもん。」

「でも、大典君とは、学科もクラスも違うんでしょう?会う確率の方が少ないんじゃないの?」

「同じ学校にいると思うだけで…萎える…。」

 ん〜。困ったような声を出して倖歌が悩む。

「あっ!じゃあ、明日のランチ奢ってあげるよ♪し・か・もデザート付きで♡どう?」

 最終手段は、食欲にあり…。

「…乗ったぁ〜!明日は、絶対だからねぇ〜。」

 そう言って、夜の十字路を右へ曲がって行く秋穂。さっきまでの落ち込みようが嘘のようで突然、面白くなってしまった倖歌は、笑いが止まらないまま十字路を左へと曲がって家路につく。


…翌日…。

「ごめん…秋穂。」

 謝る倖歌を宥めるように…

「ううん。サチのせいじゃないし…。仕方ないよ。」

 現場は、大学構内の学生食堂。秋穂と倖歌がランチを楽しもうとした瞬間、目の前に…ある人物が座った。

 それは、秋穂が今現在、1番…会いたくない人物だった。

 その人物は、新しい彼女であろう女性と仲睦まじく寄り添っている。

 秋穂は、思う…よりによって何故、その女なのかと…。

「大ちゃん♪はい、あ〜ん♡」

 まぁ、見事なまでのバカップルぶりに呆れ果てている。

「秋穂、席変えようか?あっちが空いてるよ。」

 と、倖歌が言って、立ち上がろうとした途端、誰かが話しかけて来た。

「おっ!北原じゃん♪」

「え…?」

 呼ばれて振り返る倖歌。

「あ、凌ちゃん先輩…。」

「…お知り合い…?」

 秋穂がポソリと呟く。

「翔太の先輩だよ…。」

「そうなんだ…。」

「そう、この鬼の凌ちゃん先輩に…翔太がどれだけ苛められた事か…。」

 と、大袈裟な身振り手振りで言う倖歌に凌と呼ばれた男性は…

「あれは、苛めじゃなくて扱きっつーんだっての。あいつの才能は、お前が1番わかってただろうが…。」

 ケラケラ笑いながら、倖歌の頭をくしゃくしゃと撫で回している。

「っと、あ…。」

「え…?」

 凌は、秋穂を見ると急に恥ずかしそうに頭をカリカリと掻いた。

「やっと、先輩…気付きましたぁ〜?」

 嘲笑うように言う倖歌の頭をペシッと叩きながら…

「あ、俺…江本と北原の先輩で…西園寺 凌って言うんだ。初めまして、笹原 秋穂さん。」

「えっ?何で名前…。あ、サチから聞いたんですか?」

「それもあるけど、それだけじゃなかったんだなぁ〜。これが…。」

 凌の言っている意味がわからず、首を傾げる秋穂。

「どういう意味ですか?」

「まぁ、簡単に言うと…一目惚れってやつ…かな?」

「え…?」

 言われ慣れていない言葉に秋穂は、戸惑う。

「…ってか、秋穂ちゃんって…今、フリーだったりする?」

「つい、最近フリーになりましたけど…。」

 白々しく目の前にいる、大典の方を見ながら言ってやった。

「マジで?こんなに可愛いのに…?」

 秋穂の隣に座りながら、凌が言うと秋穂の顔が真っ赤になった。

 こんな間近で男の人に、そんな事を言われた事なんて今までなかったから…

「マッ…マジです…。」

 凌と秋穂の会話に突然…

「コイツの何処が可愛いんだか…。」

 割って入ってきたのは、大典だった。

「可愛げなんて全然ないし、気も効かないし、我儘だし…。1ミリも可愛くなんてないし。」

 当て付けのように毒気を吐く大典に凌は、冷静な声で言葉を返す。

「で…?自分の事、どう思っているのかわからなくなって別れ話を切り出してみたら…あっさり切られちゃった…的な…。」

「…………。」

 凌の言葉に反論しない元カレの姿を、少し複雑な気分で眺めていた…。

「…図星か?ガキだな…。」

 クククッと笑いを堪え切れない凌にカチンときたのか…

「うるっせぇ!そんな女…最初から遊びだっつーの!」

 大典が大声でのたまわった。

 売り言葉に買い言葉だった…。でも、秋穂の心を十分に傷つける言葉だった。

 思いもよらず、秋穂の瞳から涙が一筋…流れた。

「秋穂…。大丈夫?」

 心配した倖歌が涙を拭ってくれる。

「大丈夫…ごめん…。何で涙なんか…出ちゃったんだろう…。自分でもわかんないや…。」

 慰めるように、凌が秋穂の頭を撫でながら…

「やっぱ、ガキだねお前。女の子を泣かせちゃ…ダメだよ…。」

 凌の言葉に少し怒気がこもっていた。

「今更、そんな事されたって…オレには、もう新しい彼女がいるし…。バッカじゃねーの…。目薬でも仕込んでたんじゃねーの?」

 ケラケラ笑いながら言う大典に対して、秋穂は思った。どうして、こんな人を一瞬でも好きになってしまったのだろうって…。

「本当に目も当てられないくらいのガキだな。秋穂ちゃん…こんな奴と別れて正解だったよ。」

 溜息と共に首を左右に振る凌。

「ねぇ〜大ちゃん、もう行こうよぉ〜。香奈…ココにいるの飽きちゃったし…。」

「あぁ…。オレも呆れたわ。別れた女の話、目の前でされて…。馬鹿馬鹿しいったらないよな。」

 大典の毒気は、まだ治らないまま食堂を彼女を連れて食堂を出て行った。

 2人がいなくなって秋穂は、少し気が楽になった。

「しかし、酷い男だね…あいつ。別れて正解だったよ。秋穂ちゃん…。」

「あっ!もう、こんな時間じゃん。」

「何かあるんですか?先輩…。」

 事もなげに倖歌が聞くと、少し困った表情で…

「俺、4回生よ?就活、就活。」

「そんなお忙しい時期なのに、面倒な事に巻き込んでしまって…すみません。」

 と、秋穂が謝ると…軽く顔の前でヒラヒラと手を振って…

「あんなの面倒のうちに入らないから、気にしなくていいって。」

 と、屈託なく笑う…そんな凌に秋穂の胸はトクンと跳ねた。

「あ、これ俺の番号とメアド書いてるからさ、あんな酷い奴…忘れて俺にしとけば?あんなのより全然、大切にするよ?」

 と、渡された紙には本当に番号とアドレスが書いてある。

「じゃあ、俺…急ぐから。またね♪」

 凌は、局所的な嵐のように去って行った。

 残された倖歌と秋穂は、呆気にとられていたが…

「アタシは、凌ちゃん先輩…オススメだよ?優しいし大典君よりは、全然…大人だし。秋穂には、ああいう感じの人がいいんじゃないかと思うんだけどな…。」

 沈黙を破ったのは、倖歌だった。

「…なんだかんだで、最後…もう告ってたようなもんだしさ…。」

 その言葉に、秋穂の心は揺れに揺れていたけれど…もとかの言葉がグサリと刺さり傷心した今は…。

 今じゃない…そんな気もする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る