蜘蛛にもわかる
なるみやくみ
第1話
ある日の、”午前中”がそろそろ終わりそうな時間のことだった。
私は毎朝洗濯をするのだけれど、その日は朝早くに近所の掃除当番で掃除に行っていたうえ、帰宅してすぐに急な来客があったため、洗濯する時間がこんな時間になってしまった。
まあ、幸い天気は快晴で、今から干しても夕方には乾きそうなのはありがたい。
さあ干すか、と思いながら、洗濯籠を抱えてベランダに出ると、ハンガーに1匹の蜘蛛がせっせと巣を作っていた。
「困ったなあ。そこに巣を作られると洗濯物が干せないから、もう少し向こうで作ってくれたら良いのに」
思わず思ったことが口から言葉になって出ていた。
とはいえ、その日は仕方がないので、蜘蛛に巣を作られてしまった辺りを避けて洗濯物を干した。
思った通り、その日の夕方には洗濯物はほとんど乾いていて、その日のうちに干したものを取り込むことができた。
その次の日、この日はいつものように”朝”といえる時間のうちに洗濯物を干すことができた。
さあ干すか、と思いながら、洗濯籠を抱えてベランダに出ると、昨日の蜘蛛の姿も蜘蛛の巣も見当たらなかった。
少々驚きながら辺りを見渡すと、別の場所で昨日見かけたのと同じ蜘蛛と思わしき蜘蛛がせっせと巣を作っていた。
ひょっとして私の希望を聞き入れてくれたのか。
いや、まさかな…と思ったが、意外と蜘蛛の中にも人間の言葉や気持ちを理解できる蜘蛛もいるのかもしれない。幸いものわかりの良い蜘蛛だったのだろう。
「ありがとう、蜘蛛さん」
私はお礼を言った。
後に知ったのだが、蜘蛛は他の害虫を食べてくれるため、「家の守り神」といわれることもあるらしい。
あの蜘蛛は、我が家の守り神だったのかもしれない。
蜘蛛にもわかる なるみやくみ @kuminarumiya
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