第51話 剣聖の格
炎の奔流が大広間を焼き尽くさんと迫る。
その前に立つのは、王国最強の剣士――剣聖ライオネル。
「ソフィア!」
「は、はいっ!」
名を呼ばれたソフィアは、緊張で杖を握りしめる。
ライオネルは炎の魔神イグニスから視線を外さずに問いかけた。
「俺に氷の魔法をかけられるか?」
「……え? えっと……意味はわかりませんが、できます!」
ソフィアは困惑しながらも力強く頷いた。
「よし。俺が合図を出したら、全力で氷で俺を覆え」
ライオネルは剣を構え、低く息を吐く。
イグニスが再び咆哮を上げ、灼熱の炎を吐き出す。
その瞬間――。
「今だ!」
ライオネルの声が響き、ソフィアが杖を振り下ろす。
「アイス・コーティング!」
青白い魔力が奔流となって迸り、ライオネルの全身を厚い氷が覆った。
その姿は一瞬にして“氷の鎧”を纏った戦士と化す。
「ふっ!」
灼熱を恐れぬその体勢のまま、ライオネルは一直線にイグニスの懐へ飛び込み――。
閃光のごとき剣撃が一閃。
剣聖の刃は炎を裂き、イグニスの巨体を真っ二つに断ち割った。
断末魔の咆哮が広間を揺るがし、炎の魔神は光の粒子となって霧散していく。
ライオネルは肩に剣を担ぎ、涼しい顔で吐き捨てた。
「……熱いだけの魔神だからな」
その背に、ソフィアをはじめ仲間たちはただ圧倒されるしかなかった。
これが――剣聖の格。
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