第47話 王都騒然

お助け冒険団は、霧を纏う巨竜――ミストドラゴンの背に跨がり、王都へ向けて大空を翔けていた。


「うわっ、速っ……!」

カイルが必死に鱗にしがみつく。

想像を遥かに超える飛行速度に、風圧は嵐のごとく容赦なく襲いかかってきた。


「ちょ、ちょっと! これじゃ飛ばされる!」リリアナが悲鳴をあげる。

必死に体を伏せながら、叫んだ。

「アレン! ソフィア! 風魔法でシールド張って!」


「わかった!」

アレンとソフィアが同時に詠唱を開始し、透明な風の障壁が仲間たちを包み込む。

衝撃が和らぎ、一同はようやく胸を撫で下ろした。


「……助かった……」リリアナが息を吐き、セレーネも「これなら安心ですわね」と微笑む。


そんな時だった。

眼下の雲海の中から、巨大な影が浮かび上がった。


「……あれは……?」

陽光を反射する巨大な岩塊――島のようなものが空中に浮かんでいた。

幾重にも重なる岩盤に樹木が茂り、滝のように水が流れ落ちている。


「幻の浮島……!?」

ソフィアが目を見開いた。

「本当に存在したのね……!」


だが、竜は一行の驚きを気にも留めず、そのまま一直線に飛び続ける。


「止まって!」

リリアナが叫んだが、言葉は届かず、浮島は横目に素通りされていった。


「おいおい……あんなの、めったに見られないだろ……!」カイルが口を開けたまま呟く。


王都を目指す飛行は続く。

一瞬の奇跡を横目に通り過ぎながら、一行は竜の背で再び強風に身を委ねた。



ミストドラゴンは、巨大な翼をはためかせながら王都の上空を旋回し、そのまま中央広場へと降下した。


轟音とともに石畳が震え、地面に爪が食い込む。

突如現れた霧の竜に、王都の人々は悲鳴を上げ、荷物を放り出して四方八方に逃げ惑った。


「ドラゴンだ! ドラゴンが広場に!」

「早く逃げろ!」


瞬く間に混乱が広がり、鐘の音とともに鎧の音が響く。

王国騎士団が駆けつけ、槍と剣を構えて竜を取り囲んだ。


「おいおい、いきなり討伐モードかよ……」カイルが冷や汗をかく。


その背から降り立ったのは、お助け冒険団の面々。

セレーネが一歩前に進み、堂々と声を張り上げた。


「待ちなさい! この竜は王都を脅かす存在ではありません! 私と共に霧の谷から来ただけです!」


王女自らの言葉に、騎士たちは息を呑み、緊張を解いた。

「セレーネ殿下……そうでございましたか」

指揮官が剣を下ろし、周囲の騎士たちも続いて武器を収める。


ミストドラゴンは大きく一声吠え、霧を巻き上げながら空へ舞い上がった。

そして王都の空を旋回すると、静かに東の空へと帰っていった。


その雄姿を見送りながら、広場に残った人々は言葉を失い、ただその余韻に浸っていた。


「……目立ちすぎだろ、俺たち」

リリアナが額に手を当て、アレンは苦笑を浮かべるのだった。



王都の広場での騒ぎがようやく収束した後、アレンたちは貴族の館を訪れた。

枝分かれした角――クリプティカの証を差し出すと、貴族は目を細め、口元に笑みを浮かべた。


「間違いない……これが霧の谷の角か。よくぞ手に入れてくれた」


重厚な金貨の入った袋が差し出され、成功報酬を受け取る。

これで七大角獣の討伐・採取は残り一種となった。


「残すは……“インフェルノックス”。燃えるような赤い単角を持つ角獣だ」

アレンが依頼票を確認する。


「名前からして、すっごく暑そうね」リリアナが額に手を当てる。

「生息地は“溶岩の荒野”と記録にあります」ソフィアが読み上げるが、眉を寄せた。

「……ただし、その荒野がどこなのか、記録には残っていません」


「場所がわからないのかよ……」カイルが頭を抱える。

「せっかくここまで来たのに、最後の一つが見つからないなんてな」


セレーネは静かに唇を引き結ぶ。

「ですが、必ず手掛かりはあるはずですわ。“お助け冒険団”がここまで来たのですもの」


七大角獣――残り一体。

その鍵は“溶岩の荒野”のどこかに眠っている。

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