第43話 次なる挑戦へ
星屑の山脈から下山したアレンたちは、依頼主である貴族の館を訪れた。
アストラゴンの星形の角を差し出すと、貴族は目を丸くして声を上げた。
「さらに、アストラゴンの角も手に入れてくるとは! 見事だ!」
こうして成功報酬を受け取り、七大角獣の依頼は残り二種となった。
同時に、山頂で発見した神器「朝凪の大剣」も王宮へ届けられ、宝物庫に厳重に保管されることになる。
一連の成果に安堵したものの、まだ課題は残っていた。
セレーネとリリアナの装備は戦闘で効果がはっきりと示されたが、ソフィアの「イリシアの魔導ローブ」はまだ真価を発揮できていない。
「……ねえ」
ソフィアが急にカイルを見つめ、にこりと微笑んだ。
「カイルさん、大怪我してください。あっという間に治しますから」
「いや、なんでわざわざ怪我しなきゃいけねぇんだよ!」
カイルが即座にツッコミを入れ、リリアナとセレーネが吹き出す。
アレンも苦笑を浮かべた。
ソフィアの突飛な提案に場が和んだあと、リリアナは真剣な表情で腕を組んだ。
「……七大角獣、あと二体よね」
アレンが頷くと、リリアナはきっぱりと言い切った。
「だったら、このまま揃えちゃいましょう。中途半端に放っておくより、一気に終わらせたほうがいいわ」
「場所がわかっているのは?」カイルが問いかける。
「霧の谷──クリプティカ。枝分かれした角を持つ角獣よ」
リリアナが地図を広げ、指先で目的地を示した。
王都から魔空船で一日半、そこから魔導車で半日。さらに徒歩で半日ほど進んだ先にあるという。
「霧の谷か……視界が悪くて厄介だな」アレンが地図を覗き込み、ため息をつく。
「でも、確かに残りが二体なら、ここで勢いをつけたほうがいい」
「そういうこと!」リリアナが力強く頷き、セレーネも「次の挑戦にふさわしいですわね」と微笑む。
こうして、お助け冒険団の次なる標的は――七大角獣クリプティカに決まった。
◇
王都から魔空船で一日半、さらに魔導車で半日。
最寄りの村で一息ついたのち、お助け冒険団は徒歩で霧の谷へと足を踏み入れた。
そこはまさに名の通り、谷全体が濃密な霧に覆われていた。
白い幕が一面に広がり、数メートル先の姿すらおぼろげになる。
「……これは厄介ね」
リリアナが短剣を抜き、視線を走らせる。
「霧で視界が塞がれてる。クリプティカだけじゃなく、他の魔物もいるはずだ」
アレンが声を低くして告げる。
仲間たちは自然と隊列を組み直した。
お互いの背中を確認できる程度の距離感を保ち、だがすぐに援護できる位置を意識して進んでいく。
「油断しないで。霧の中から一気に襲ってくるかもしれないわ」
リリアナが釘を刺すと、カイルが大剣を肩に担ぎながら苦笑した。
「こういうときこそ、誰かの新装備が役立つといいんだがな」
霧の奥から、不気味な鳴き声が響いた。
それが谷に潜む魔物のものか、それとも――狙うべき七大角獣クリプティカのものかは、まだわからない。
冷たい霧が肌を刺すようにまとわりつき、一行は慎重に、一歩一歩を踏みしめて進んでいった。
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