第16話 王女、仲間入り

謁見の場を終えて、アレンたちが退出しようとしたとき。

セレーネ王女がアレンの隣に並び、凛とした声で告げた。


「婚約者なのですから、残りの神器探しには当然、私も同行します」


「えっ……」

アレンが戸惑う横で、リリアナがすかさず口を挟んだ。

「ちょっと待ってください。うちのパーティーは神器だけじゃなく、猫探しや下水掃除までやってるのよ? 王女様に耐えられるかしら」


セレーネは一瞬きょとんとしたが、すぐに微笑んだ。

「面白いじゃない。何でもやってみせますわ」


「……ほんとに言ったな」

リリアナは腕を組んで深くため息をついた。


アレンは苦笑しつつも、内心では妙に前向きだった。

「でも王女が一緒なら、俺たちだけじゃ通れない場所にも入れるだろ。悪いことじゃないと思う」


「……好きにすれば」

リリアナは肩をすくめ、それ以上は言わなかった。


こうして、セレーネ王女が正式にパーティーへ加わることになった。



「で、次の依頼は何ですの?」

胸を張って尋ねるセレーネに、アレンは爽やかな笑顔で答えた。


「王宮の塀の掃除」


「…………え?」

一瞬、沈黙。


リリアナは冷ややかな視線を向け、カイルは腹を抱えて笑い転げた。

ソフィアは気の毒そうに視線を逸らす。


セレーネはこめかみを押さえ、深いため息をついた。

「……まさか、自分の家の掃除をさせられるなんて」


「ほら、言ったでしょう? うちは何でも屋みたいなものだって」

リリアナが皮肉っぽく言う。

「……心得ましたわ」

セレーネはきっぱりと頷き、杖を構えてみせた。

「この身に誓って、塀の汚れすら見逃しません!」


「いや、それは大げさすぎるから!」

アレンが慌てて突っ込みを入れるのだった。



アレンたちは王宮の門前で、依頼のことを衛兵に告げた。


「王宮の塀の掃除の依頼を受けて来ました!」

衛兵は呆気にとられた顔をし、ちらりとセレーネを見やる。


「セ、セレーネ様!? あなたはなさらなくても……」

セレーネは真剣な表情で首を振った。

「いいえ。私は彼らの仲間です。パーティーである以上、共に任務を果たします」


衛兵は困惑しながらも掃除道具を渡すしかなかった。

「……畏まりました」


こうして王女までもが箒と雑巾を手に、パーティーは塀沿いに散らばって掃除を始めた。


「……まさか王女が雑巾を絞る日が来るとはな」

カイルがぼやきながらブラシをこする。

アレンは苦笑しつつ隣の苔を削ぎ落としていた。

「こういうのも経験だよ」

「経験のベクトルが完全に間違ってるでしょ」リリアナが呆れ声を上げる。


そのときだった。

ソフィアがふと顔を上げ、異変に気づく。


「……あれ?」


塀の影から、黒い影が滑り出てセレーネの背後に迫った。

布で口を塞ぎ、腕を絡めて引きずり込む。


「セレーネ様っ!」

ソフィアの叫び声に、アレンとカイルが反応する。


「行くぞ、カイル!」

「おう!」


二人は箒と雑巾を投げ捨て、影を追って駆け出した。

頼れるのはアレンの剣とカイルの大剣、そして己の脚力のみ。


「絶対に追いつくぞ!」

アレンの声が、落ち着いた午後の王宮を切り裂いた。


こうして、王女誘拐をめぐる緊迫の追走劇が幕を開けた。

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