Episode.9 休息と暗躍
◆ 工房の日常 ― 勝利の余韻◆
ブラッドウルフ・ロードとの死闘から一夜。
アウルディーン工房は、昨日の激戦の爪痕を残しつつも、どこか温かな空気で満ちていた。
戦場の金属臭がまだ工具に残り、油と煙の匂いが漂っている。だが、同時に湯気立つハーブティーの香りや、焼き菓子の甘い匂いも混ざり合い、そこに「帰ってきた場所」の確かな温度があった。
◆情報の流れる空間
天井の投影窓が光を帯び、王城からの通信が工房の中央に映し出される。
《こちら王城研究班。戦闘データ、瘴気拡散ログ、灰仮面の残滓解析を送信する》
リュシェルの声が響き、森全域の立体地図に赤い瘴気の軌跡が描き出された。
アイリスは食べかけのパンを机に押しやり、眼鏡の奥の瞳を輝かせる。
「……やっぱり。ここ、この位相ノイズ……ギルドの依頼配信ルートと完全に重なるわ」
《裏口は王都側から塞ぐ。次は“罠”を逆手に取って、彼らの潜伏網を炙り出す》とリュシェル。
ネルフィは頷き、銃の整備をしながら微笑んだ。
「ありがとう、リュシェル。あなたが見ていてくれる限り、私たちは闇に迷わない」
◆それぞれの作業と安堵
マリウスはリルの脚部を外して補強を施し、工具の火花を散らしていた。
「こいつも無茶したな。でも帰ってくるなら、何度でも直すさ」
《摺動温度を2.5度下げると安定性が増す》とリュシェルの声。
「了解、王女様の指示は助かるね」彼は笑みを浮かべた。
デイジーはネルフィの隣に温かいカップを置く。
「ネルフィ様、今日は絶対に冷める前に飲んでください」
足元ではアカとシロが丸まり、尻尾を重ねて「にゃぁ……」と安らかな寝息を立てていた。
榊は一人、縁側で刀を拭っている。
「……声が届く司令塔は悪くねぇ。次も斬るべきものを見失わずに済む」
◆絆を繋ぐ言葉
レオンは相変わらずネルフィの隣にぴたりと寄り添い、白衣の袖を指でつまんでいた。
「……昨日の“共鳴モード”。あれがなければ俺はまた呑まれていた」
《共鳴値はログ化済み。次回は装置側で自動追従するアルゴリズムを組む》リュシェルの即答に、ネルフィは少し赤面して呟いた。
「本当に……ありがとう。私たちの“もうひとつの工房”だね」
アルスが黒猫の姿で卓上に座り、尾を揺らす。
「戦場の勝利は過去に。だが“工房”の勝利は未来を支える。……それが日常の意味です」
◆日常と備えの交錯
投影窓の片隅では王城の紋章が点滅し、新たな情報が流れる。
《監視網を一ブロック拡張済み。搬入路、刺客の経路、夜間の魔力流束——すべて私が監視している》
ネルフィは星図に重なる赤点を見つめ、唇を固く結んだ。
「戦いはまだ続く。けど……帰る場所があるから、私は何度でも立ち上がれる」
その言葉にレオンは頷き、榊は黙って刀を鞘に収めた。
マリウスは工具を止めて肩を伸ばし、デイジーは「もう一杯どうですか?」と紅茶を勧める。
工房の喧騒と笑い声。
そのすぐ背後で、情報という“見えない盾”が静かに広がっていた。
◆◇◆◇
◆ギルド報告◆
ブラッドウルフ・ロード討伐から翌日。
王都辺境支部ハンターギルドの大扉が、重々しく開かれる。
入ってきたのは、白衣に外套を羽織った小柄な少女と、その仲間たち。
彼らが引く荷車の上には、厚い封印布に覆われた巨体が横たわっていた。
布の隙間から漏れる瘴気の波動に、広間の空気が凍り付く。
「……あれは……?」
「まさか、ブラッドウルフ・ロード……?」
「いや、そんな馬鹿な。依頼は下級魔獣討伐のはずだ!」
息を呑む音。驚愕に走る視線。
Gランクの新人工房に渡されたはずの“肩慣らし”依頼。
――その報告として持ち込まれたのは、王都を揺るがすはずの《ブラッドウルフ・ロード》の亡骸だった。
◆報告と証拠
ネルフィは一歩前に進み、受付カウンターに戦闘記録を提出する。
「依頼達成報告。《対象:ブラッドウルフ・ロード》。討伐ログ映像と亡骸を確認願います」
端末から投影された映像に、広間の視線が集中する。
赤い月下の森。咆哮する巨狼。
ネルフィの指示のもと、榊とレオンが剣閃を交わし、リルの主砲が唸りを上げる。
仲間全員の総力戦で巨影を追い詰め、最後に心臓を穿つ瞬間――
「あり得ねぇ……!」
「バケモノを……駆け出しが……」
ベテランハンターでさえ青ざめ、無言で額の汗を拭った。
◆裏切り者の動揺
その中で、ひとりの職員が蒼白になっていた。
――依頼の改竄を仕組んだ、黒爪派の内通者。
「馬鹿な……奴らは死ぬはずだった……! どうして、生きて……!」
小さく漏れた声は誰にも届かない。
だが彼の脂汗は、彼自身の恐怖を雄弁に語っていた。
◆受付嬢の決意
一方、カウンターに立つ若い受付嬢は震える手で依頼票を読み返す。
「……下級魔獣の討伐、のはず……。でも記録と違う……」
目に映るのは、明らかに改竄された痕跡。
彼女は周囲に気取られぬよう身を翻し、裏手の回線を開いた。
「……マスター。緊急報告です。依頼書に不審な改竄の痕跡を発見しました。内通者の可能性があります。詳細は内密にお伝えします」
その声は震えていたが、誠実な眼差しがそこにあった。
――小さな正義の選択が、静かに動き出していた。
◆仲間たちの守り
ざわめきが膨れ上がるギルド。ネルフィは無数の視線に晒され、思わず一歩退きかけた。
その瞬間――レオンが前へ出て、彼女を背に庇った。
赤い瞳が鋭く光る。
「……ネルフィを見世物にするな。彼女は俺の仲間だ」
榊は刀の柄に手を添え、静かに鋼を鳴らす。
「騒ぐなら、まとめて黙らせてやるぞ」
リルは低く唸り、アカとシロは足元で尾を立てる。
工房の仲間たちは自然と盾となり、ネルフィを囲んでいた。
◆昇格資格の授与
やがて、査定官が現れ亡骸を検分した。
「……間違いない。《ブラッドウルフ・ロード》だ。辺境支部史に残る偉業だ」
広間の空気が爆ぜる。
「本当に……!」
「新人がB級上位個体を……!」
査定官は厳かに告げた。
「アウルディーン工房――君たちの討伐記録は本部に送られる。よって、Fランク以上への昇格試験資格を与える」
ネルフィは息を呑み、仲間たちを振り返る。
レオンは誇らしげに微笑み、榊は肩をすくめ、リルは咆哮を上げた。
アカとシロが「にゃっ!」と尻尾を高く掲げる。
その光景に受付嬢は胸の奥で祈る。
「……どうか、この子たちが闇に呑まれませんように」
――こうして、駆け出し工房の名は王都全体を揺るがし、次なる伝説の扉を開いたのだった。
◆受付嬢の報告
――広間に衝撃の波が走り、ネルフィたちがFランク以上への昇格資格を告げられたその夜。
裏手の回廊では、若い受付嬢が胸を押さえながら歩いていた。
握りしめるのは、改竄の痕が残る依頼票。
彼女の瞳には決意の光が宿っていた。
「……マスター。至急、お目通しいただきたいことがございます」
結界に閉ざされた一室――。
そこに佇む壮年の男が、受付嬢の報告を無言で聞き届ける。
深い皺に刻まれた表情は、一見穏やかだが、その眼差しは剣よりも鋭い。
「……そうか。やはり“奴ら”が手を伸ばしていたか」
低い声は、まるで大地を震わせるようだった。
ギルドマスター・グラウス・エルンスト。
かつて勇者と共に死線を渡り歩いた「生きる伝説」。
彼は依頼票を手に取り、ゆっくりと息を吐いた。
「ネルフィ・アウルディーン……。バルグとリュシアの娘よ。
いずれ、この日が来ると思っていた」
受付嬢は目を見開いた。
彼の口から語られたのは、誰も知らぬ“過去の名”――。
「人払いを済ませておけ。
……今夜、あの娘を奥の間へ通せ」
その声音は、運命を告げる鐘のように重く響いた。
◆◇◆◇
◆ 裏社会の暗躍◆
陽が傾き、王都の街並みを赤い夕陽が染めるころ。
表通りは露店の呼び声と笑い声でにぎわっていたが、その裏側では別の熱がうごめき始めていた。
路地の影、古びた倉庫の地下室、喧噪に紛れた酒場の奥。
目に見えぬ黒い潮が、王都の下層に満ち始めていたのだ。
その動きを最初に察知したのは、アウルディーン工房の通信窓に映るホログラムだった。
《リュシェル報告:暗黒街で複数の派閥が同時に活発化。……工房を標的にしたものも含まれている》
リュシェルの冷ややかな声に、工房の空気が一瞬だけ重くなる。
黒き派閥たち
リュシェルの投影に次々と組織の紋章と概要が浮かび上がる。
赤牙(レッドファング)
粗暴派。近隣の露店を襲撃し、恐怖と混乱で工房の評判を貶める計画。週内に「露店破壊」を行うとの報。
黒鴉団(ブラックレイヴン)
工房の仲間・ラムを“錬金兵器”として攫い、売り捌く筋書き。夜間の港湾倉庫に不審な搬入記録。
蛇の環(サーペント・サークル)
帝国と繋がる人体実験派。既に「工房メンバーの初期名簿」が闇市場に流れている。
漆黒の牙(ブラックファング)
市街に分散して爆薬を仕掛け、ギルドの警報システムを乗っ取って誤信号で起爆する計画。
黒薔薇一家(ブラックローズ)
貴族の社交界からネルフィの特許を盗み、取引市場に流そうとしている。背後には“バルト侯爵”の影。
黒爪(ブラッククロウ)支部
ギルド内部に食い込み、依頼改竄を行う。新米工房を危険任務へ誘導して「失敗」を装う。
ゼルダンが葉巻を靴で潰し、低く呟いた。
「ネルフィ嬢……街は“声を潜めて騒いでる”。表に静けさがあるほど、底の暗闇は深い」
工房の対応
ネルフィは拳を握りしめ、投影の光を見つめる。
「私たちを狙って動いてるのは明らか……でも、全部受け身じゃない。こっちから切り込む」
リュシェルが即座に策を提示する。
《対処案を提案:
1)赤牙の露店襲撃は“罠”。偽装護送部隊をぶつけ、突入の瞬間に捕縛。
2)港湾倉庫の動きはアイリスのドローンで追尾し、夜間記録を王城と照合。
3)黒爪の依頼改竄は“逆改竄”。高危険任務を逆に彼らのフロントに流し込む》
アイリスは頷きながら端末に指を走らせる。
「やれる。私が罠のコードを書き換える」
フィクスは工具を鳴らし、コルトが装填音を響かせる。
レオンは静かに剣を抱え、「来るなら来い。ネルフィの隣を守るだけだ」と呟く。
榊は刀を膝に置き、冷たい眼で言う。
「闇の連中だろうが、罠なら踏み抜いて斬る。それで十分だ」
情報と決意
工房に広がる空気は不思議なものだった。
窓越しの外は穏やかで、人々は平和な夜を過ごしている。だが工房の内部には確かに“戦の匂い”が漂い始めていた。
ネルフィは深く息を吸い、仲間と投影窓の向こうのリュシェルを見渡した。
「どんなに裏社会が蠢いても、私たちは逃げない。工房は――家族は、私が守る」
リュシェルの声が少しだけ和らぐ。
《ええ。その言葉を聞けて安心したわ。……ネル、次に来る嵐はもっと大きい。それでも私は情報で道を開く。あなたたちは、前へ進んで》
彼女の声が途切れると、工房に静寂が訪れる。
だがその静けさは決して脆くない。
闇を前に、彼らは着実に“工房の力”を研ぎ澄まし始めていた。
◆◇◆◇
◆ 帝国十二柱の蠢動◆
夜。
王城戦略室からの回線が工房に直結され、室内の壁一面に冷たい光が広がった。
天井まで届く立体投影に描かれたのは――帝国宮廷を支配する十二の巨影。
《帝国十二柱、最新の動きが観測されたわ》
リュシェルの声は冷ややかで、同時に硬い緊張を帯びていた。
第一皇子 アドラステアス
「血の夜が来る。小娘を連れてこい」
声紋記録が流れると、室内の空気がざらりと揺らぐ。
彼は「兆し」の儀式を近く執り行い、ネルフィを“供物”として用いる準備を進めているという。
《儀式の日程はまだ秘匿されているけれど、占者の動きから逆算できる。動くならその直前》とリュシェル。
ネルフィは短く答える。「儀式の供物は断つ。物流の根を絶つわ」
第三皇子 バルタザール
闇ギルド《黒爪》への投資を拡大し、資金を武装と暗殺者に流し込んでいる。
《資金の流れは外苑の私設銀行に集中。そこから“洗浄”され、帝都の裏市場へ。口座トークンを一枚引き抜いた——解析中》
マリウスが端末を叩き、呻く。
「これだけの資金、都市一つを内側から潰せる量だ……」
第四皇女 エリュシア
錬金術と禁呪の研究を兼ねる残酷な科学者。
「スライムを奪え。兵器に再設計せよ」――記録された声は冷酷そのものだった。
《港湾の検疫官に“買収痕”を確認。搬入の迂回航路は三本。全部こちらで監視下に置いたわ》とリュシェル。
ラムがぷるぷると震え、ネルフィはそっと手を添える。
「誰にも奪わせない……」
第十一皇子 オルフェウス
扇動家。人々の心を操り、帝国に逆らう者を「異端」として焚きつける。
《市中に流れたチラシの木版工房を特定。明朝には押さえられる》
ホログラムには“異端の少女”と描かれたネルフィの似顔絵。
レオンが拳を握りしめる。
「……ふざけるな。ネルフィは光だ。闇の口実なんかにさせるか」
その他の柱たち
第五皇子は軍部を通じて武装傭兵を招集。
第七皇女は宮廷魔導師団と連携し、瘴気研究を推進。
第九皇子は密かに黒薔薇一家へ資金を流す。
それぞれの影が静かに王都へと触手を伸ばしていた。
工房の決意
ネルフィは深く息を吸い、星図に投影された十二の影を見上げた。
「敵の声は大きい。でも、私たちには耳がある。目がある。……リュシェル、あなたがいる」
《そうよ。あなたが一歩踏み出すたびに、私は十手を後ろで打つ。二人三脚で――この帝国の影を切り裂く》
リュシェルの声は冷たさの奥に確かな熱を帯びていた。
榊は刀を膝に置き、静かに呟く。
「声を潜めて蠢く十二の化物か……なら、俺たちは音を立てて斬り捨てるだけだ」
レオンは剣を握り直し、ネルフィを見据える。
「たとえ帝国全体を敵に回しても……俺は君の隣で戦う」
こうして王城と工房は一枚の布のように結ばれ、帝国の巨大な影へと対抗する“情報と剣の同盟”が動き出したのだった。
◆◇◆◇
◆ 黒狼騎士団の影◆
翌未明。
工房の卓上に展開された立体地図が、冷たい月光を浴びて不気味に光っていた。
そこには王都外縁に広がる古戦場跡――数百年前の戦乱で血に染まった荒地が示されている。
通信端末からリュシェルの声が響いた。
《帝国直属、皇帝の影とも呼ばれる《黒狼騎士団》。最新の観測で、彼らの進軍準備が確認されたわ。指揮を執るのは団長ラドクリフ・ガルザート。目的は“銀狼に近し男”の抹殺――つまり、レオン》
その名が告げられた瞬間、工房の空気がぴんと張りつめた。
レオンの指が地図の一点で止まり、静かに拳を握り込む。だがその瞳は揺るがない。
《副長エリシアの策も動いている。“孤立させ、家族を剥がす”のが彼女の常套手段。標的を戦場から引き離し、一人にしたところで容赦なく潰す。あなたたち全員が狙われる可能性が高いわ》
榊は腕を組み、地図の地形を睨みつける。
「やるならここだ。古戦場の窪地は狭く、数が多くても展開できねぇ。刀一本で迎え撃つなら、地形が味方する」
ネルフィは眉を寄せ、リュシェルに問う。
「迎撃に必要な条件は?」
《三つ。
一、補給路を切ること。黒狼騎士団は精鋭だが、物資が尽きればただの獣に過ぎない。
二、監視結界を増設。彼らの魔力署名は独特だから、事前捕捉できる。
三、有事の退避ルートを三系統確保すること。地上のABルート、そして異空間を抜けるCルート。Cの鍵はこちらで握るから安心して》
マリウスは端末を叩きながら呟く。
「帝国最強の突撃部隊を“迎え撃つ”なんて、正気じゃねぇ。だが……面白くなってきた」
ゼルダンが煙草を指で転がし、不敵に笑った。
「黒狼が来るってのか。街が血に染まる前に、ネルフィ嬢の工房で牙を折ってやろうぜ」
レオンは深く息を吐き、視線をネルフィに向ける。
「俺は逃げない。たとえ帝国十二柱の命令だろうと、俺を孤立させようとしても無駄だ。工房が俺の背を支える限り、誰一人ネルフィには触れさせない」
その言葉にネルフィは小さく頷き、白衣の裾を正した。
「……じゃあ、私があなたの前に道を作る。後方はリュシェルが守ってくれる。榊さんと一緒に、正面を斬り拓いて」
《いいわ。私がレーダーとなり、影を逃さずに捕らえる。あなたたちは正面を信じて斬ればいい》
リュシェルの声は冷徹で、それでいて不思議な安心感を与える。
こうして――
帝国の
◆◇◆◇
◆ 星の下の誓い◆
夜更け。
王都の空は雲ひとつなく、無数の星々が冴え冴えと瞬いていた。
アウルディーン工房の屋上では、冷たい夜風が白衣を揺らし、街の灯が遠くで微かにまたたいている。
ネルフィは両手を欄干にかけ、長い呼吸をひとつ落とした。
「……守る。工房も、仲間も」
その声は小さく、それでいて確かな意志を帯びていた。
背後の天窓から柔らかな光が差し込み、ホログラムが宙に浮かぶ。
《ネル。こちら王城研究班。新しい後方支援プロトコルを走らせたわ》
リュシェルの落ち着いた声が、星の光に重なるように響く。
《名は“OWL-LINK(オウル・リンク)”。
都市監視網、王城研究班、外交チャンネル、ギルド監査……すべてを束ねて一本の情報線にした。
あなたが前に一歩踏み出すたび、私は後ろで十手を打つ。
あなたたちが戦うとき、私は“見えない第三の手”になる》
ネルフィは視線を上げたまま微笑み、囁く。
「……リュシェル。あなたは私の“もうひとつの工房”だね」
階段口からアカとシロがひょいと顔を出し、尻尾を振る。
「にゃふふ〜♪ ネルフィちゃん、夜風きもちいいにゃ!」
「シロも、星がいっぱいで眠れないにゃ!」
レオンは無言のまま隣に立ち、片手を剣の鍔にかけて星を仰ぐ。
榊は手すりにもたれ、静かに月を眺める。
「声が届く司令塔、刀を振るう前衛。……悪くねぇ組み合わせだな」
黒猫姿のアルスが欄干に飛び乗り、尾を揺らす。
「誓いは更新されました。記録として、アウルディーン工房全員に共有しますか?」
冗談めかしたその言葉に、ネルフィは小さく笑った。
「――絶対に、奪わせない」
彼女の声が夜気に滲んだ瞬間、工房の灯りがほんの少し強く輝いた気がした。
見えない線はすでに張られている。
剣は磨かれ、機械は整えられ、情報の網は空を覆った。
嵐が来るのなら、真正面から迎え撃つだけ。
アウルディーン工房は、星々の下で静かに牙を研ぎ、未来へと誓いを刻んだ。
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