漫才10「卒業証書」

幌井 洲野

漫才「卒業証書」

<これは漫才台本です>

セリフの掛け合いをお楽しみください。


【卒業証書】


二人 「どうも~ アヤミとアズサでアヤアズです~ よろしくお願いします~」

アズサ「アヤミ、あんた、アヤミか?」

アヤミ「うん、ウチ、アヤミやで。ほんで、あんた、アズサか?」

アズサ「うん、ウチ、アズサやで。これでええんか?」

アヤミ「な、ウチらのツカミ、これでええのんかな?」

アズサ「うーん、ちょっとよう考えようか」

アヤミ「そうしよか。回転焼き食べて考えたら、もっとええツカミ出るかもわからんしな」

アズサ「そうしよ」

アヤミ「さて」

アズサ「さて、なに?」

アヤミ「アズサ、あんた卒業証書持っとる?」

アズサ「うん、持っとるよ。大学のやろ?」

アヤミ「ちゃんと卒業したやんな」

アズサ「うん、ウチ、ちゃんと卒業した思うとるけど、だいじょぶかな」

アヤミ「そうなんよね。ウチも大学の卒業証書持っとるけど、あれ、ほんまだいじょぶかな」

アズサ「なんや、卒業したて本人が思っとっても、チラ見せやと無効なんやろ?」

アヤミ「うん、なんやいま、どっかでもめとるしな」

アズサ「長ごう見せたらええらしいで。19.2秒とか」

アヤミ「19.2秒て、どこから来たんや?」

アズサ「200m走の世界記録やないかな?」

アヤミ「へー、200mを世界記録で走ると、有効になるんや」

アズサ「うん、なんや、ストップウォッチで測るんやて」

アヤミ「そっかー、ウチらちゃんと大学で四年間頑張ったけど、200mを世界記録で走られへんから、ひょっとして無効か? なんやちょっと悲しいな」

アズサ「ええやんか。ウチらの青春は、その19.2秒に詰め込まれてん。うち、四年生んとき、さんざんフィールド調査で、大学の周り回って調査したんやけど、200m走の速さちゃうしな。19.2秒やって言われたらなあ」

アヤミ「悲しまんでもええやん。一年間の苦労がそれだけぎゅっと積み込まれた卒業証書なんやから」

アズサ「アヤミもな、四年間やっとったロボットの研究が19.2秒かぁ」

アヤミ「うん、ウチ、四回生んときに作ったロボット、200mを19.2秒とかで走れへんかったで。そもそも立っとらんし」

アズサ「どんなロボットだったん?」

アヤミ「回転焼き作るロボット」

アズサ「ホンマ? ロボットが回転焼き作るん?」

アヤミ「うん、回転焼きを、10秒ぐらいでササっと型に生地入れて、片面焼いて、アンコ入れて」

アズサ「ホンマ? すごいやん。それなら19.2秒の間に十分作れるな」

アヤミ「ま、あと焼く時間が要るけどな。それより大変なんは、その前と後で、お客さんに注文聞いて、あと、お会計しいひんとあかんのよ」

アズサ「え、そこまでやるん?」

アヤミ「うん、いらっしゃいませー、ご注文は?て聞いて、お客さんが、回転焼き十個、箱に入れてな、とか言わはると、その通りに焼いて」

アズサ「十個やとどんぐらいで焼けるん?」

アヤミ「いっぺんに十個焼けるから、5分ぐらいかな」

アズサ「へー、人間と同じやね。ほんで、どうするん?」

アヤミ「あと、ロボットが回転焼き十個箱に入れて、お会計して、ありがとうございましたー、て」

アズサ「すごいやん! 十個の回転焼きを焼いて、箱に入れてお会計するロボット作ったん?」

アヤミ「うん、でもダメなんよ。お客さんから注文聞いて、作って、箱詰めして、お会計するの、座ってやるん。立ったままでできひんの」

アズサ「なんや、そんなん、座って焼いててもええやんか」

アヤミ「ダメなんよ。卒論指導のセンセが、回転焼きの接客は立ってやってこそ回転焼きや、とか言うて。だからウチ、大学院とか行くのやめて小説家になったんよ」

アズサ「そこか」

アヤミ「うん、そやからな、ウチ、19.2秒、とか聞くと、それ思い出してうれしくないねん」

アズサ「うん、ウチら、四年生んときはがんばったもんな」

アヤミ「うん、だから、ウチらの卒業証書は、ちゃんと見てもろても平気やん」

アズサ「そやね。ストップウォッチもいらんね」

アヤミ「いっしょけんめ学校行って、卒業証書もろても、卒業してからが大事なんやけどな」

アズサ「そやね、自分のやっとること、チラ見せしかできんようにはなりたないね」

アヤミ「な、がんばろな」

アズサ「うん、がんばろな」

二人 「おあとがよろしいようでー」

(了)

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漫才10「卒業証書」 幌井 洲野 @horoi_suno

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