お節介さるかに合戦 2
柿の木の下、母ガニの墓の隣。五体は並んで、熟れて地面に落ちた柿を分け合っていました。
「この度は、本当にありがとう。ぼく一匹では、復讐は成せなかった」
「よせやい、俺たちの仲だろう?」
頭を下げる子ガニを、馬糞が茶化します。
「それに、あのサルにむかついていたのは俺たちも同じさ。あいつ、柿の種を埋めれば最終的に柿が食べ放題だって言い張って他の動物から食料を奪うのを繰り返していやがるらしいからな。俺の友であるウサギも被害に遭った。ありゃあ悪質な詐欺師だ」
「全くだ。そもそも、俺たち野生動物にとっちゃ、いつ成るか分からない柿よりも今持っている食料の方がよっぽど大事だ。木が育ち切るまで生きていられる保証もねえ」
臼と蜂もそんな愚痴を口にして、子ガニを慰めます。
「間違いない。まあ、死んだ者の悪口はもうよそう。今は、亡くなってしまった母ガニさんに手を合わせるのが先だ」
栗の言葉を合図にして、五体はもういない母ガニに黙祷を捧げました(それにしても、自分含めこの場にいる誰も手なんて持ち合わせていないのに、よくそんなことが言えたものです)。
「……それにしても」
子ガニは、サルが最期に遺した言葉が引っかかります。殺すつもりはなかったなんて言葉は、今際の際で罪を逃れたくてでっち上げただけかもしれません。けれども気になってしまうのは、この殺ガニ事件にいくつか不審な点があったからです。
まず、死体発見時の母ガニの姿勢。母ガニは、ハサミを柿の木に向かって伸ばすようにして倒れていましたが、よく考えたらこれは変です。柿の実を投げるという蛮行に走ったサルから逃げようとしたとすれば、母ガニは柿の木に背を向けた状態で、背中から柿の実をくらうことになるはずです。……あ、違うか。カニなのでカニ歩きで逃げるために、柿の木に対して横向きになったかもしれません。どちらにしても、その状況で死んだ場合ハサミは柿の木の方を向きません。逃げる間もなく殺されたにしても、正面から柿の実をくらえば仰向けに倒れるはずで、やっぱり現場の通りにはならないはずです。
考えられるのは後ろからの攻撃ですが、柿の木が母ガニの前にある状況で、どうやって後ろから柿の実を当てられるというのでしょう。……あるいは、上か? 母ガニは柿の木の真下に近い場所で倒れていたので、これは考えられなくはないです。
もう一つ気になるのは、母ガニを潰した柿が赤かったこと。嫌がらせのためなら青くて固い実を投げればいいものを、なぜあんなに熟した実で殺したのか。
「どうしたんだい、子ガニさん」
臼が子ガニの顔を覗き込み、心配そうに言いました。子ガニとしては、まだ確定していない情報を話して混乱させるわけにもいかなかったので、
「いや、ぼくは結局、何の役にも立てなかったなと思って」
と、誤魔化しました。
「何を言っているんだい、子ガニさんが力を貸してと言ってくれたから、俺たちは一つになれたんだ」
「そうさ、リーダーがお前さんでなきゃ、俺たちはこんなに団結できなかった」
馬糞と栗が口々に言います。
「それもこれも、蜂さんが急いで知らせに来てくれたおかげだよ」
少し照れ臭くなった子ガニはまた話を逸らしたのでした。
「いやあ、俺は栗さんの指示に従っただけだよ。最初に母ガニさんの死体を見た時は頭が真っ白になっちまって、そこに通りがかった栗さんが……」
蜂の話を聞き流しながら、子ガニはサルの最期の言葉を思い返していました。
『あのとき、彼女が突然、前に出てきたせいで…………』
考えてみれば、少なくともこれはおかしな証言です。だって、母ガニはカニなのですから。突然に前に出てくるなんてことはありえません。やはりサルは嘘をついているのでしょうか、それとも。
「……あ」
ようやく気付きました。子ガニの復讐劇は、まだ終わっていなかったのです。
めでたし、めでたし……?
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