お節介さるかに合戦 1
子ガニが蜂に連れられて柿の木の下まで走って(と言っても所詮カニ歩きなので、速度はたかが知れていますが)到着した時には、既に母ガニは息絶えていました。血のように真っ赤な柿の汁(カニなんぞに真っ赤な血が通っているかは知りませんが)が飛び散るその下で、うつ伏せに倒れた母ガニのハサミはまるで犯人を指し示すように柿の木に向かって伸びていました。
「サルだ……。あのサルがやりやがったんだ……」
殺ガニ現場まで連れて来てくれた蜂が、独り言のように言いました。母ガニの死体の周りに、子ガニの友人(友物?)である栗、臼、馬糞も揃っています。
「サルのやろう、嫌がる母ガニさんからむりやりおにぎりを奪って、柿の種なんぞ押し付けて……」
と馬糞。
「それでも母ガニさんは健気に、その柿の種を地面に埋めて育てようとした。子供であるお前に、腹いっぱい食わせてやりたかったのかもな」
と臼。
「それなのにあの憎きサルときたら、立派な柿の木が育ったと知ってあっさり手のひらを返しやがった。それは元々俺のもんだと、木に登れない母ガニさんを尻目においしい柿を独り占めして、挙句……」
栗が怒りを飲み込むように言葉を切って、冷静な声で
「木の下で文句を言っていた母ガニさんに、柿を投げつけて殺しちまった」
と教えてくれました。それで、子ガニの心は決まりました。
「ぼくは母さんの仇を取りたい。みんな、協力してほしい」
こうして五人……五匹……二匹と三個? とにかく、彼らはサルへの復讐計画を練り始めました。
***
「おお寒い寒い」
外から帰ってきたサルは、真っ先に暖炉へと向かい、火をつけます。そのときでした。暖炉の中からサルめがけて、栗が飛び出してきたのです。
「いてっ!」
栗の突撃を胸で受け止めたサルはよろめいて、後ろに置いてあった水がめに背中から突っ込みます。すると今度は、水がめの中から蜂が飛び出して来て、サルの背中を攻撃したのです!
「ひいっ、いったいどうなっているんだ!」
どういうわけかわからないが、この家は危険らしいとサルは悟りました。慌てて家の外に逃げようとしますが、そうは馬糞が許しません。哀れサルは玄関を一歩出たところですっころんでしまいました。
「うっ……なんて不運な」
サルが起き上がる前に、臼がとどめの一撃! サルの体の上に、どしんとのしかかりました。
「ぐえっ!」
臼の下で、サルはまだ息がありました。一部始終を家の外から見守っていた子ガニは慌てましたが、
「だいじょうぶ、こいつはもう長くない。俺ほどのものがあの高さから落ちてきて、無事なものはいまい」
と臼が言い切ってくれたのでほっとしました。確かにサルは口から血の泡を吹き、今にも死にそうです。
「サルさん、サルさん」
それならば最後に、と子ガニは死に体のサルに近づき、声をかけました。
「ぼくが分かるか? お前に無惨に殺されたカニの息子だ」
相手は抵抗できないような高さから物を投げてカニを殺したカニ殺しなのですから、そう簡単に謝罪の言葉がもらえるとは思っていませんでした。むしろ、母ガニを殺したことすらこのサルは忘れているかもしれません。ところがサルは意外にも、
「ああ、あのカニさんの……」
と、悲しそうにつぶやきました。
「殺すつもりなんて、なかったんだ。悪いことをした……」
「嘘をつけ! 柿を投げつけておいて、殺意がなかったなどと……」
「わかっている、おれが、おれが悪い。……ああでも、あのとき、彼女が突然、前に出てきたせいで…………」
「おい、おいサル、それはどういうことだ」
子ガニの呼びかけに、答えはありません。サルはごぽっと血を吐き出して、ぱたりと動かなくなりました。こうして彼らの復讐は終わったのです。
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