反転シンデレラ 1
「こんばんは、お嬢さん。何かお困りですか? この魔法使いが、助けてさしあげましょう」
「ああっ、信じていませんね? それなら……ビビデ・バビデ・ブー!」
魔法使いが唱えて、杖を一振り。畑のかぼちゃとそれをつまみ食いしようとしていたネズミたちが、一瞬でかぼちゃの馬車に変身しました。
「まあ!」
これにはシンデレラもびっくりです。
「私、この日のためにずっと魔法の勉強をしてきたんです。いじわるなお義姉さんたちに灰被りとののしられながらも懸命に畑仕事をするあなたさまを、はじめて見かけたその日から!」
言われて思い出しました。彼女は確か、近所に住む貴族の一人娘だ。話したことこそありませんでしたが、シンデレラも何度か彼女の姿を見かけたことがありました。
「家の人間が全て出払うなんて、こんな機会は滅多にありません。
小さな魔法使いが、うやうやしく手を差し伸べます。それは馬車の乗り降りを手伝う御者のようでも、「一緒に踊りませんか?」とダンスに誘う王子様のようでもありました。……そうだ、ダンスパーティー。シンデレラは思い出します。
「魔法使いさん、ここから逃げ出す前に、お願いがあるの」
その夜、お城では王子様主催のダンスパーティーが開かれていました。ただのダンスパーティーではありません。王子様が自分にふさわしい結婚相手を探すためのパーティーです。町の女の子たちにとっては一生に一度あるか分からない、お姫様になるチャンス。シンデレラが逃げ出したり仕事の手を抜いたりしないか見張るため、いつもなら家に一人は残っている継母や義姉、召使いでさえもそのたった一度のチャンスを掴みにお城へ出かけています。
「私も、そのパーティーに行きたいの。だけど、私はお城に行くための服も、靴も持っていない……」
義姉たちの汚いおさがりしか着せてもらえないシンデレラ。足に至っては裸足でした。こんな格好では、お城まで行ったところで門番に追い返されて終わりです。それに王子だって、こんな女と踊ってはくれないでしょう。
「そんなに、行きたいのですか? 王子があなたさまを選んでくれる保証なんてないのに」
「わかっているわよ。だけど、夢くらい見たっていいじゃない。きっともう二度とない機会よ。選ばれなくたって、王子様に一瞬でも手を取って、踊っていただけたなら、それってとっても素敵でしょう?」
「……それでもし王子があなたさまを選んだら、あなたさまは姫としてお城で暮らすのですか? 王子と一緒に?」
「まあ、お姫様なんて夢みたいな話ね」
ここに来てからずっと笑顔だった魔法使いがこの時初めて表情を歪めましたが、うっとりと空想にふけっていたシンデレラは気づきませんでした。
魔法使いは思います。自分なら、こんな場所で生活するよりもずっと、シンデレラを幸せにしてあげられる。けれど、お姫様並みの生活を送らせてあげられるかと言われると……。
「……わかりました。それでは、ビビデ・バビデ・ブー!」
魔法使いが杖を一振りすると、シンデレラのぼろ着はたちまち美しいドレスに変わりました。彼女の足がぴったり収まる大きさの、ガラスの靴も忘れていません。
「まあっ、素敵」
「十二時を過ぎると、魔法が解けてドレスが消えてしまいます。元のみすぼらしい姿を王子に見られたくなければ、必ずそれまでに帰ってきてください」
「ええ、ええわかったわ。約束する」
実のところ、これは嘘でした。ぼろ着をまとったシンデレラの姿を王子に見られて困るのは、魔法使いの方ですから。泥を被っても灰を被っても決してくじけず美しくあり続ける彼女の姿を知っているのは、自分だけでいい……。
だから、時間が来たら
ダンス中に足をもつれさせたことで王子が怒ったり、呆れたりするようなことがあれば、その時は自分のところに戻ってきてくれればいい。だけどもし、王子がよろけたシンデレラをとっさに抱きとめるような、優しい心の持ち主であったら……。小さな魔法使いは、どこまでもシンデレラの幸せを願っているのです。
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