まず、冒頭の数行で一気に物語の世界に引き込まれました。蝉時雨、陽炎、カメラの絞り。夏の空気感や光、匂いまで伝わってくるような情景描写が非常に美しく、主人公・遥斗がファインダー越しに見る世界が、読者の心にも鮮やかに映し出されます。
主人公の遥斗は、過去のトラウマによって心に傷を負い、どこか色褪せた世界を生きています。そんな彼の前に現れるのが、謎めいた転校生・灯。明るく完璧に見える彼女がふとした瞬間に見せる儚さや孤独の影がとても魅力的で、「この子のことをもっと知りたい」と思わされました。
写真という共通項を通して、不器用ながらも少しずつ距離を縮めていく二人の姿は、まさに王道の青春小説。特に夏祭りのシーンは、その場の喧騒や高揚感、そして二人の間に流れる甘酸っぱい空気に、読んでいて胸が高鳴りました。
この絶望的な状況から、物語はどのように動いていくのでしょうか。灯が抱える秘密や、彼女がこの町に来た本当の理由が明かされる時、二人の運命はどうなるのか。遥斗がこの過酷な運命にどう向き合い、過去の傷を乗り越えていくのか、彼の「再生」の物語を強く期待しています。
切ない青春のきらめきと、心を抉るような衝撃、そして深い謎が見事に融合した、続きが気になって仕方がない物語です。