0034. 両親の告白!すでに知ってますよ
私が二歳の誕生日を迎えた、ある日の午後のことだ。
盛大なお祝いの席で疲れ果て、主役として愛想を振りまき続けた私は、心身ともに疲れ果て、ぐっすりと昼寝をしていた。昼寝からぼんやりとした意識の中、目覚めると、最初に感じたのは、いつもそばにいてくれる人の優しい気配だった。
私のお世話係である侍女のたきが、私の寝顔を覗き込み、穏やかに微笑んでいた。
【たき】は、母上がこの里見家に嫁いでこられた時から仕えている侍女たちの長であり、私が産まれてくるまでは奥を取り仕切っていた重鎮だ。そんな彼女は、今では私の専属お世話係として、片時も離れずそばに付いてくれている。
「お琴様、お目覚めにございますね。実は、御殿様と奥様がお呼びでございます」
(誕生日当日に、改まっての呼び出しか……)
特にやらかした記憶はない。となると、何か重要な話だろうか。
私は「二歳児らしさ」を全力で演じることを心に決め、まだおぼつかない舌足らずな声を出した。
「たきぃ、わかったでちゅ。でも、ちちうえとははうえにあうから、すこしだけ、みなりを、ととのえたいの」
この演技は、私なりの処世術だ。姫御子と祭り上げられ、父上たちを困惑させている自覚はある。だからこそ、せめて子供らしい無邪気さを見せることで、たきのような近しい人たちを安心させてあげたかった。
私の拙い演技に、たきは「まあ」と愛おしそうに目を細め、くすりと笑うと、慣れた手つきで私の髪を梳かし、新しい着物に着替えさせてくれる。
「お琴様は、本当におませさんでございますね。ですが、もう少しはっきりお話しになられた方が、奥様もお喜びになりますよ。お琴様は、本当にお賢いのですから」
たきに喋り方を少し注意されたが、その優しいお小言が、心地いい。彼女は、私のことをただの「姫御子」としてではなく、一人の女の子として、本当の孫のように接してくれる。その温かさが、私の心の支えになっている。
たきに手を引かれ、私の小さな歩幅に合わせたゆったりとした足取りで、父上と母上の部屋へ向かう。たきのその優しさが嬉しい。
襖の前でたきが「琴姫様をお連れいたしました」と声をかけると、中から父上の張りのある声がした。襖の前でたきが声をかけると、中から父上の張りのある声がした。
「おお、琴か。待っておったぞ、入れ」
襖が開き、私は中へ入る。二人の前にちょこんと正座し、計算し尽くされた最高の笑顔を向けた。
「ちちうえぇ、ははうえぇ、こと、まいりましたぁ!」
若干、間延びしたような、甘えた口調になってしまった。案の定、母上がやれやれと小さな溜息をつく。まぁ、二歳児だ、許してくれるだろう。
「琴。殿の前ですよ。もう少し、はきはきとお話しなさい」
「まあまあ、真里。まだ二歳じゃ。可愛らしいではないか」
すかさず父上がフォローに入る。その目は完全に親バカのそれだ。このやり取りも、我が家の日常風景。厳しくも深い愛情を注いでくれる母と、私に激甘な父。二人にちゃんと愛されている実感が、胸をじんわりと温かくする。
「それで、父上。きょうは、なぁに?ことに、おはなしがあったのではないのでしゅかぁ。ないようとは、なんでしょうかぁ」
注意されたばかりなので、少しだけハキハキと、そして首をこてんと傾げて見せる。これも計算済みの、二歳児の必殺技「上目遣いコンボ」だ。
すると、さっきまでデレデレだった父上の表情が、すっと真剣なものに変わった。
「うむ。琴よ、そなたも二歳になった。そこで、そなたの身にまつわる、大事な話をしようと思うてな」
母上も、優しく、しかし真剣な眼差しで私を見つめる。
「今の琴には、少し難しいお話かもしれません。でも、聞いてちょうだいね。分からなければ、何度でもお話ししますから。この話は、琴が産まれる前日の夜から始まった、とても大切なお話なのよ」
(――来た!)
私は内心で、盛大なガッツポーズをした。
おぉ、ついに、ついに来たのだ!両親の口から、あの神々の【やらかし】について、正式に語られる時が! 待ってました! きっと私が知らないウラ話も聞けるに違いない!
(一体、どんな風に説明するんだろう? 神様は、どんな姿で二人の夢枕に立ったのかな? 私の時みたいに、いきなり顕現したのかな? それとも、声だけ? 『この子は将来、世界を救います』みたいな大袈裟なことを言ってないでしょうね? それとも、『この子は大変な食いしん坊です』とか、どうでもいいことを伝えたのかしら?)
私が全てを知っているとは夢にも思わず、神妙な面持ちで語り始めようとする両親。その姿が、なんだかもう可笑しくて、愛おしくて、たまらない。
これから始まる「答え合わせ」の時間が、楽しみで仕方がない。
母上に注意されないように、にやけそうになる顔の筋肉を必死で引き締め、私は「うん!」と力強く頷き、二歳児にできる最大限の真剣な表情を作って見せた。
母上は、私が理解しやすいように一つ一つの言葉を選びながら、静かに、そして優しく語り始める。それまでの和やかな家族の雰囲気から一転し、部屋に神聖さにも似た厳粛な空気が満ちていく。
その佇まいは、まるで、古の物語を語り聞かせる巫女のようだった。
さあ、聞かせてもらおうか。私の人生を決定づけた、一夜の神話を。
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