(仮)どこにでもあるありふれた異世界転生物語。
74。
転生、出会い、修行、旅立ち... (仮)
第1話
32歳 男性 独身。
趣味という趣味もなく、仕事を終えては電車に揺られ。目が覚めればネクタイを締めて職場に行く毎日...。
周りからは「働き者ですね!」とか「金に困ってなくて羨ましい。」だとか言われてきたが、好きで入ったはずの会社の中身はチームワークの欠片もなく責任の押し付け合い、誰かがミスをしたら罵詈雑言の集中砲火を浴び、部署総出で残業をこなさないと回らない仕事管理の低さ。その挙句、休日に電話で呼び出されミスをした半泣きの後輩と今にも角が生えそうな上司をなだめる日々。
そんな『時間はないけど金だけはある。』年月を過ごしていくうちに、いつしか俺の心は燃え尽きてしまっていた。
(もう随分とこの会社ではたらいたよなぁ...。そろそろ別の職場でも...って、そもそも30を超えたオッサンを1から雇ってくれるとこなんてあるんだろうか...?)
終電を待つホームで俺はふと考えていた。
(いや...あ、でも。仕事の引継ぎはどうしよう?そもそもあの上司は辞表を受け取るのか...?それに今頑張って耐えてる後輩達は俺が辞めたらきっと...)
あれこれと考えているうちに電車の音が近づいて来た。
「考えてたってしょうがないか...。」
そう言葉を漏らしアナウンスが流れたところで俺は1歩前に出た。
(今週中に辞表を用意してみよう...次の就職先は...まぁ、後からでもいいか...。)
そんなことを考えながら開くドアの足元を眺めていると、中から女性が一人出て来た。
(ハイヒール...。ここじゃ珍しいな...)
横を通り過ぎるハイヒールを横目で確認し、顔を上げて乗り込もうとしたとき。
俺は車両内からマスクを付けた黒ずくめのパーカー男が走って来るのを見た...。
「まてゴラァ!くそ女ぁ!!!」
その一声はその場にいた数名を一瞬で硬直させるには十分すぎるほどの憎悪だった...。
男がそう吐き捨てポケットからナイフを出した瞬間...俺の周りの全てがスローモーションになった。
(は?え?嘘...。マジで!?ヤバいって...!!!)
俺の体はゆっくりと身構えながら、目線は男の右手のナイフに向いている。
(こ、これ絶対今すれ違った女性に向かってだよな...!?それにこいつに一番近いのは俺で...で、でで、でも一体どうすれば!?)
ゆっくりと流れる時の中、恐ろしいほどの速さで回る思考...。
「あぶな...っ......いっ!!!!」
そう言い切る前に、俺の体は思考よりも先に1歩右に動いていて、俺とナイフ男の右半身同士は激しく衝突していた...。
≪ドンッ!!≫
と鈍い音と共に俺は男と後ろに倒れ、それと同時に時間の流れは戻った。
(全身が...あ...つい...。頭が...痺れ...る。)
少し遅れて頭と腹の上の方に強い衝撃を感じ、状況を確認しようと首を起こそうとした時、数名の悲鳴と、声にならない声を叫ぶ男の声が聞こえた。
「うっ...!」
俺がすぐに立ち上がろうと体に力を入れ目を開いた瞬間。
男は俺を跳ね除け立ち上がり、真っ青な顔で俺を見たあと叫びながら走りだす...。
悲鳴が鳴りやむと一瞬の静寂が辺りを包んだ。
「うわあぁーぁ!!!どけっ...!そこをどけえぇぇー!!!」
男の汚い怒号が響いた瞬間、駅のホームは騒然とした。
(あぁ...痛てぇ...それに力が抜けて起き上がれねぇ...)
「大丈夫ですか!?」
天井のライトが眩しくて瞬きをすると、驚きと恐怖が混ざったような表情の女性が俺を覗き込んでいた。
「あ...あぁ...だい...ウッ!?」
答えようとしたが、全身を襲う激痛で俺は顔をしかめるのが精一杯だった。
「す、すぐに救急車と警察を呼びますから!そのまま動かないで下さい!」
女性はそう言って、震える手でスマホを操作しはじめた。
「そいつを捕まえろ!!!」
少し離れたところからは男性の声でそう聞こえ、同時に数名の走り出した足音が響いた。
(はぁ...今日は少し冷えるなぁ...)
俺は言われた通りに動かず、焦りながらスマホで話す女性の顔と、少し霞んで見える天井のライトを薄目に見ながらそう感じた。
「はい...そうです、刺されたんです...急いで下さい!血が...!血がたくさん出てるんです!!」
泣きそうな声で喋る女性の声を聞いて、俺はすぐに我に返った。
(え...?刺された?血?)
俺は首を少し起こして、視線を下に向けた。
(マジかよ...これ...。)
そこで目にしたのは、右胸から少し斜めに生えたナイフの柄とスーツに拡がり続ける血だった...。
《ドクン...ドクン...ドクン...》
その時、俺の頭の中は真っ白になり、ただただ現実を見る事しか出来なかった。
《ド...クン...ド...クン...ド...クン...》
(そうか...俺ここで死ぬのか...)
俺は体に入れていた僅かな力を抜き、また天井を見た。
《ドッ......ドッ......ドッ......》
(まぁでも...これでようやく休めるのなら...悪くはないかもな...)
「はい...!はい、分かりました!お願いします!」
女性の通話が終わり、いつの間にか俺の周囲には知らない顔と声が溢れていた...。
ガヤガヤと周りから聞こえる中、俺が唯一はっきりと聞こえていたのは心臓の鼓動だけだった。
(そう言えばあのハイヒールの女性は無事だっただろうか...?あのナイフ男はどうなったのだろう...?結局あの上司とは最後まで分かり合えなかったな...。そうだ、後輩達にまだ教えてやれてない仕事がた...く...さん...)
《ド......ド......》
俺は弱くなる鼓動を感じながら、死がすぐそこまで来ていることを悟った。
(32歳...独身...。短いような、長いような...でも最後は一人で死ぬもんだと思っていたけども、たとえ知らない誰かが側で見ていてくれてるのなら、悪い人生ではなかったよ...な...)
目の前が、だんだん暗くなっていく...。
(もしも...生まれ変わるのなら......今度は...もっと上手に...い......き......)
《ド...... ...... ..................》
そして目の前は完全に真っ暗になり、それと同時に俺の意識も消えてなくなった。
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