主人公はAという青年。
これは彼とヒロインの物語。
緻密な情景描写によって物語の世界を立ち上げ、機知に富んだ会話で私たちをその奥へと引き込んいく。
奥手な主人公は愛らしく、ミステリアスなヒロインの魅力は主人公を通して私たちさえも惹きつける。
二人の関係はどうなっていくのか?
思わずそう考えずにはいられない。
私たちが彼らの関係性に執心していると、一抹、不穏な影がよぎる。
その時、私たちはこの物語のジャンルが「ホラー」であったことを思い出す。
情景が転調して、変化していく様相の中、物語に漂う透徹した美しさは損なわれることはない。
そして、私たちは彼らの結末を見届ける。
コンサート会場で美しいソプラノを披露する少女cとその歌声に心を奪われたA。ふたりの織り成す美しくも奇妙な物語です。
すっかり彼女のファンになったA。彼女のコンサートがあるたび頻繁に通うようになり、食事も共にする間柄に。
「遠出して海に行きませんか?」
彼女から誘われた初めての旅行。驚きを隠せないA。でも彼女とふたりで過ごせるのならと約束をします。
非日常の晩夏の扉、くぐりぬけた先の浜辺にふたり。
はるかな海に呼応する彼女の微笑。
音楽と詩と、水精と――これらが言葉を超えて混ざり合い、性のゆらぎが妖しさを孕むように惑わせます。
ふたりの向かう先が奇妙な符号で繋がれて、清流のせせらぎのような歌声が静かな海で引き寄せていく。幻想的な高揚感に導かれるふたりの行く末をご覧ください。